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増田浩
MASUDA HIROSHI

増田浩

株式会社アークテック 代表取締役

快適な住空間の追求から始まる持続可能な未来を見据えた挑戦
建物や室内空間など、目に見える部分を飾る“建築仕上げ材料”のコンサルタントとして、日本の建築業界において唯一無二の存在感を発揮し続ける株式会社アークテック。「建築業界の枠にとらわれない活動を通じて、日本人の生活の質の向上に貢献したい」と話す同社の増田浩代表取締役に、創業25年目を数える同社のビジョンと展望を聞いた。
増田浩
世界のどこにもないものを形にする

岐阜市で建設会社を営む家に生まれ、幼い頃から「将来は家業を継ぐことになるのだろう」と漠然と考えていたという増田氏。慶應義塾大学法学部に進むも中退し、父の紹介で就職した先が京都を本社とする建材メーカーだった。
「当時からイタリアやドイツなどの海外から仕上げ材を中心とする建材を輸入し、国内にも自社工場をもっている会社でした。当初は、家業とは関係のなかった仕上げ材への興味はそれほどありませんでしたが、入社して2年が経つ頃に父が他界して、戻るはずだった場所が無くなってしまった。そこから仕事とより真剣に向き合うようになり、空間のイメージや快適さを大きく左右する、仕上げ材を扱うことの面白さに魅了されていったのです」

増田氏によると建築には4つの大きな要素があり、そのうちの3つが“設計”と“構造”と“設備”。最後の“仕上げ”は人でいえば洋服にあたり、アークテックでは壁や床から扉、家具、照明まで、人の目に触れるすべての部分を“仕上げ材”と総称し、顧客の要望に応じた提案を行なっている。
勤めていた会社で建材を輸入する際に関わった商社から出資を受け、増田氏が独立してアークテックを創業したのは1998年のこと。
「当時はまだ日本で建材を作っている中小の工場がありましたが、今ではほぼすべて大手に集約されてしまっています。結果、日本では効率的に大量生産ができる仕上げ材しかつくられなくなり、住宅などもどんどん画一的なものになっています。対して、当社では創業当時から仕上げ材のコンサルタントとして、個人の建築士や設計事務所などの依頼に応え、デザイン性と機能性に優れた海外の仕上げ材をご提案したり、世界のどこにもない一点物を国内外の協力工場と連携して製造、施工してきました。ある旅館から相談を受けて信楽焼の浴槽を作ったり、商業施設のシンボルとしてイタリアから職人を呼んで大理石のアートを描いてもらったり。顧客のイメージに合わせて、カタログにない物をゼロから生み出すのも私たちの大切な仕事です」

創業から25年、個人の住宅はもちろん、国際的なスポーツ大会の会場から数々のアミューズメント施設、全国の大型商業施設やラグジュアリーホテルまで、今やアークテックの仕事は全国津々浦々に広がっている。

増田浩
次代の若者たちに残したい大好きな日本

日本とヨーロッパの建築における大きな違いが建物の寿命だ。ヨーロッパでは古い住宅が価値あるものとされる風潮があるが、日本の一般的な木造住宅は築20年、コンクリート住宅でも築47年を過ぎれば、資産価値はほぼゼロになる。
「そうした風潮があるからか、日本では建材などにもデザインや機能よりコストが重視されがちです。とはいえ、長期的に見た経済的な負担や環境への負荷、不安定な社会情勢などを考えると、本来であれば長く快適に住める家が良いはずです。例えば、日本では木ではなく紙に木目をプリントしたフローリングや扉が一般的で、これは古くなったり、傷がついたりした際に交換を前提としたもの。対して海外では木を使うので、表面を削ったり磨いたりしながら長く使うことができる。そうした仕上げ材を使った長持ちする家が日本にも増えるように、建築士の方々と連携した地道な啓蒙活動も行なっていかなければならないと考えています」

また、若手時代から建材の輸入を通してヨーロッパやアジアの国々を見てきた増田氏だからこそ、現状の日本に対しての危機感も強い。
「ヨーロッパなどでは当たり前の建材のリサイクルが日本ではできていなかったり、生活の質を決める食や住環境に対する関心も、他の先進国の人々に比べて日本人は低くなっているように思います。また、企業が利益を貧しい世帯の人々に分配するといった社会貢献活動についても、日本の企業は欧米の企業に遅れをとっています。当社でも微力ながら、売上の一部を寄付金として、世界の恵まれない子どもたちに届ける仕組みをつくりたいと考えていますし、住環境だけでなく食の問題についても、積極的な発信や取り組みを行なっていきたいと考えています」

そうした活動の根底にあるのは、自らの子や孫の世代が暮らす未来の日本への想い。
「建築業界だけで頑張って住環境の質を上げようと言っても、年間で数万人の人が自ら死を選ぶような国では未来がありません。日本を持続可能な国とするためにも、理想の住環境などへの貢献だけでなく、理想的な環境を自らの手で獲得する方法も、次世代へと繋げていければと考えています」

アークテックを創業し、一代で建築業界における唯一無二の存在となりながら、「私自身に特別な能力があったわけではない」と増田氏は言う。
「目の前の仕事に意味を見出し、長く続けてきたからこうして今も仕事を続けることができている。もし悩みをもつ若い人がいるなら、ぜひ私を訪ねて来て欲しい。楽な仕事を与えることはできませんが、一緒に働いたり進むべき道を探すお手伝いをしたりする中で、これまでの人生で私が得た経験をお伝えできればと思っています」

増田浩

株式会社アークテック 代表取締役
https://arc-tec.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。