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槇千里
MAKI CHISATO

槇千里

医療法人孝友会槇眼科医院 院長

地域最先端の医療設備を導入し、患者の目の健康と明るい未来をつくる。
人生100年時代に突入した現在、QOL(生活の質)を高めるには「目の健康」を守ることも大切だ。地域医療格差が叫ばれるなか、槇眼科医院の院長である槇千里氏の信念は「最新の医療・設備を平等に提供すること」。亡き父から受け継いだ久留米の医院と首都圏を往復し、眼科医療の啓蒙に努めている。
槇千里
画像はイメージです。
最新の医療・設備を平等に提供する

槇氏が4代目として病院の看板を受け継いだのは2015年。先代院長である父の逝去に伴い、槇眼科医院院長及び医療法人孝友会理事長に就任した。もともと、人気ドラマの影響で外科医を志した槇氏は、川崎医科大学を卒業後、肝胆膵のスペシャリストとして研鑽を積んだ後に眼科へ転科。東京・お茶の水で140年以上の歴史を誇る井上眼科病院グループや、埼玉医療センター眼科などで勤務した。眼科に転科したのは、自身の体力的な不安と、父の不調が重なったことがきっかけだという。

「父は亡くなる寸前まで、余命について教えてくれませんでした。それは、事業継承を無理強いしないようにという父の配慮だったのではないでしょうか。私が東京で一心不乱に働いていたとき、たまたま主人が『実家に挨拶に行こう』と言ってくれたのが、父が亡くなる3週間前でした。主人のひと言のおかげで、最後に父に会う機会がもてたと思うと感慨深いですね」と、槇氏は振り返る。

奇跡的なタイミングに導かれるように、院長と理事長への就任を決意した槇氏。以来10年間、首都圏と久留米を行き来しながら「最新の医療・設備をどの地域にも平等に提供する」という経営理念を推進している。

たとえば、点滴療法や眼内レンズなど、最先端の医療を積極的に導入。なかでも、昨年導入した「Mirante(ミランテ)」は、都内でも設置しているクリニックが少ない眼底検査機器だ。従来の眼底検査では、点眼後に瞳孔が開くまでの時間と、散瞳後に瞳孔が元に戻るのを待つ時間が必要であり、安全のために患者は車での来院を控えなければならなかった。しかし、久留米のように主な移動手段が車である地域では、検査を提案しても嫌がられることが多い。ミランテは高画質・高精細な撮影を迅速かつ低負担で行うことができるため、車での来院が可能になった。

「私はラッキーなことに、ミランテを扱う眼科に連続して勤務していたので、扱い方に慣れており、患者さんへの説明もスムーズに行うことができています。地方の場合は、検査の説明から術後のケアまで、首都圏とはまったく違うアプローチが必要。理解度は全員違うので、個人の特性を見ながらお話をすることを心掛けています」

槇千里
少しずつ前進する医院のビジョン

10年にわたり、毎週のように東京と久留米を行き来してきた槇氏ならではの知識と経験をもとに、首都圏と地域それぞれに適した医療を提供すべく、患者との連携を強めている。そうしたなか、「患者が求める医療は一人ひとり異なる」と頭では理解していたつもりだったが、自身がアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をもっていたことに気付かされた出来事があった。

それは、網膜ジストロフィー疾患の遺伝子治療として、ルクスターナ®︎が認可されたときのこと。ips治療とは異なるが、「RPE65」という特定の遺伝子に対する治療だ。槇氏は眼科医として、きっと多くの人々を助けるきっかけになると信じきっていた。

「治療を受けられる人には条件がありましたが、ひとりでも多くの患者さんの明るい未来をつくるために、『紹介状が必要だったら私が書くよ』と話を広めていきました。そんなとき、ある患者さんに『先生、僕は小さい頃から目が見えないのだから、いきなり見えたら困ります』と言われたのです。『見えたほうがいいだろう』というのは健常者の勝手な思い込みであることに気付きました」

アンコンシャスバイアスという言葉は、2013年にGoogle社が社員教育で実施したことで注目を集めるようになった。「確証バイアス」「正常性バイアス」「慈悲的差別」など7つの項目がある。「慈悲的差別」とは、自分より立場が弱いと思う他人に対して、本人に確認せずに先回りして不要な配慮や気遣いをすることだ。

「こうした知識を共有することは必要ですが、項目や分類に捉われ過ぎると大事なことを見失います。なぜなら、分類を知っただけでその人のことを『分かったつもり』になってしまうから。今回のことは大きな気付きでしたが、だからといって視覚障害者の方への配慮を控えるのではなく、『最新の医療・設備を平等に提供する』という軸がブレないように前進したい。我々にできるのは、医療に真摯に取り組むことです」

抜本的な改革ではなく、「少しずつ前に進む医院」を目指す槇氏。人は情報の80〜90%を視覚から得ているといわれ、視機能の衰えはQOLの低下に直結する。超高齢社会に突入し、眼科医療に向けられる期待が高まるなか、医師としての強みは外科医として全身の健康管理に取り組んできたことだ。多分野から知見を得た槇氏だからこそ、患者の明るい未来を守るための的確な啓蒙につながっている。

槇千里

医療法人孝友会槇眼科医院 院長
https://maki-ganka.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。