画像はイメージです。
すべての人に適切な医療を届けたい
「医師という仕事に充実感や誇りは感じていました。しかし、たとえ命に関わるような重い病気でも、治療や手術を終えて退院した後の患者さんの生活には関知しないという病院の在り方には、当時からしっくりしないものを感じていました」
町田氏はそうした違和感から、勤務医時代に訪問診療のアルバイトを経験。
「自宅のベッドで寝たきりの患者さんの診療を担当し、ヘルパーさんや介護士さん、看護師さんやご家族など、多くの人が力を合わせることで実現している在宅医療の素晴らしさを実感しました。在宅医療を支える訪問医であれば、病院を出た後の患者さんをきちんと診てあげることができる。自分は開業医としてこの道を進むべきだと考え、『まちだ訪問クリニック』を開いたのです」
2010年に自らのクリニックを開いた当時、町田氏が直面したのが、加齢による身体の衰えや認知症、さまざまな障害などを理由に、多くの人が適切な医療を受けることや満足のいく生活を送ることを諦めてしまっている現状だった。
「誰一人として適切な医療を受けることを諦めてほしくない。そんな思いでクリニックを経営するうち、医療だけでは患者さんを支えられないことに気がつきました。訪問医療が必要な人の中には、日々の介護が必要な方も多くいらっしゃいますし、生活のサポートが必要な度合いも人によって異なります。私たちの願いは、すべての患者さんや利用者さんが、ご家族に囲まれながらウェルビーイングな生活を送れること。そこで、五麟会を設立してデイサービスや介護支援事業所などを開設し、介護事業もスタートしたのです」
医療や介護を通じた地域社会への貢献
現在、五麟会グループでは、外来や入院治療が可能な診療所に加え、在宅医療や訪問看護を提供する複数の診療所、さらにはデイサービスや居宅介護支援事業所、訪問リハビリマッサージや有料老人ホームなどを、東京の東久留米市や埼玉県の朝霞市を中心に展開。患者や利用者、家族の希望を最大限に叶える医療や介護を目指し、グループ内の医師や看護師、介護の専門家などが連携を取りながら質の高いサービス提供に努めている。
「住み慣れた街で自分らしく生きていけるように、患者さんや利用者さんの暮らしを支援するのが私たちの役割。たとえば当グループのデイサービスでは、その日の昼に何を食べるかを利用者の皆さんに話し合って決めてもらい、皆で近くの商店街に買い物に行き、実際に調理もしてもらいます。介護が必要な方であっても、何ができて何ができないかは人それぞれ。できることをしていただくことで刺激にもなりますし、自分が社会に必要とされているという実感にもつながります。他にも、各施設では利用者さんの主体性を尊重したユニークな取り組みを行っており、皆さんにとても喜んでいただいています」
さらに最近では、誰もが気軽に通うことができる健康教室も開設。地域の人々の健康に貢献するための活動にも注力する。
そんな町田氏が目指すのが、地域包括ケアシステムの構築だ。日本では、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、医療や介護、生活支援などを地域で一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築が目指されてきた。しかし多くの地域では、取り組みがうまく進んでいないのが現状だ。
「地域包括ケアシステムの構築を推進するためには、地域の事業者が協働することが不可欠です。しかし、多くの地域ではまとめ役として先頭に立つ存在がおらず、なかなか取り組みが進んでいません。私自身が昨年の6月に朝霞地区医師会の理事に就任したこともあり、今後は同地域での地域包括ケアシステムの構築を推進していきたいと考えています」
すでに具体的な取り組みとして、地域のドクターや介護事業者をつなぐプラットフォームを構築。医療や介護に関する知識や技術についての勉強会を開くなど、地域医療や介護のさらなる充実を目指し、事業者間の連携強化をスタートさせた。
また、「医療や介護分野だけでなく、税理士や弁護士、商工会の建築部会などともつながりをもち、情報にアクセスすることが難しい高齢者の皆さんが抱えるあらゆる困りごとを解決できるような仕組みを、地域で構築していきたいと考えています」と、町田氏は未来に向けた構想を説明する。
医療者として、そして経営者として追求するのは、患者や利用者、その家族、グループ内の各施設で働くスタッフから、共同事業者や地域の人々まで、全員が幸せになれる「三方良し」の精神。誰もが諦めずに幸せな暮らしを実現できる社会を目指し、町田氏の挑戦は続いていく。
