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小規模の企業を選んだ「スモールM&A」により事業を拡大
21歳で起業し、モデルとミュージシャン、経営者という3つの顔を使い分けてきた。そんな異色の経歴をもつ株式会社グロウイング代表取締役の栗山茂也氏は、自身を「究極の飽き性」と評価。「気が付くと自分が楽しめることを追求してしまう。1つの道を極められる人を心から尊敬しますが、自分にはなかなかできない」と笑う。
30歳で現在の前身となる会社を起業し、自動車販売や不動産業を中心に事業を展開。その後、2019年頃から本格的にM&Aによる事業買収に取り組みはじめた。その内容は、レンタカー、飲食、フィットネス、建設、マリン事業と多岐にわたる。わずか数年でグループ全体の売上を5倍、人員を10倍以上に拡大した。
この成長を支えたのは「スモールM&A」。小規模の企業・事業を選び、成長を見据えたM&Aを繰り返すことで、事業拡大のスピードアップと経営リスクの分散を図る戦略だ。日本で買収と聞くとネガティブな印象をもつ人は少なくない。これについて栗山氏は、「高齢化が進む日本では、せっかく優れた製品やノウハウをもっていても後継者不在で廃業に追い込まれる企業が増えている。優良事業を未来に引き継ぐことはM&Aの社会的意義であると考えています」と言う。
さらに、「新規事業をゼロから立ち上げ、新たな収益の柱へと育てることは簡単ではありません。既に確立されたビジネスモデルや経験豊富な人材、好立地の店舗、行政の許認可などを一括で獲得できることは企業にとって大きなメリットです」と続ける。
例えば集客において今やSNSは重要な役割を担っているが、フォロワー数を伸ばすのはそう容易いことではない。Instagramのフォロワー数の多さに着目して買収したアイスクリーム店は、顧客やメディアの注目度などが開業時から約束されている状態で、良い循環ができているという。とはいえ、決して現状に甘んじているわけではない。
「インターネットを利用した集客は簡単そうに見えて、実は費用対効果が悪いことがあります。試しに従業員を店の前に立たせて呼び込みをさせたところ、目に見えて売り上げが伸びた。人が人を呼ぶ効果や、口コミや紹介に勝る集客はないことを実感した出来事でした」
日本の素晴らしさを再認識し、社会全体の経済活性化に貢献したい
これまで得た知見を活かし、2024年8月に『中小企業を成長に導く スモールM&A戦略』を上梓。加えて、スモールM&Aのコンサルティング事業立ち上げを準備中だ。栗山氏は「一般的に、M&Aの仲介手数料は非常に高額。加えて成功報酬もある。小規模企業の売買は手数料・成功報酬が低くなるので、大手のM&A仲介業者はやりたがりません。一方、中小のM&A仲介業者の場合、知識や経験が不足していることからただの紹介に終わってしまうケースが多い」と業界の課題を語る。
中小企業の経営者にとってM&Aはそう何度も経験するものではなく、適切な情報の提供や第三者によるアドバイスがないと売買はなかなか成立しないのが現状だ。だが、1つでもマッチングが成立すれば、小さいながらも経済の活性化につながる。廃業せざるを得なかった企業に、「売却する」という新たな選択肢が生まれる。そして、低成長を続ける企業が買収により再生できる可能性が生まれる――。「これらを後押ししたい」と栗山氏は語る。
その傍ら、自身は今ある事業を全て売却し、売却益で新しい事業をはじめる予定だ。まずは、沖縄県で展開するレンタカー事業を海外の企業と事業提携。事業を全国に展開し、好調が続く業界全体をさらに盛り上げることが狙いだ。
「私は頻繁に海外企業とコンタクトを取るようにしています。日本と違い、殻に閉じこもっていない発想は、ものすごく刺激になりますから。事実、最高益を出している企業は海外事業を伸ばしているケースが圧倒的に多い。高度経済成長期と今ではトレンドの速度が全く異なり、国内にだけ目を向けていると手遅れになるでしょう」
日本の成長が鈍化していることに危機感を覚えた栗山氏は、子どもや若者の未来も憂いている。現在、妻と子ども2人はマレーシアで暮らしているが、それは「便利さを『当たり前のもの』として享受してほしくない」という教育方針からだ。
「マレーシアでは蛇口をひねっても常に適温のお湯が出てくるわけでもなく、雨漏りはするし、道路は平らではない。そんな環境で生活をしてこそ、日本の素晴らしさに気付けるはず。何か苦労や失敗をしないと、イノベーションは生まれませんから」と指摘する。
栗山氏にとっては年の離れた従業員も我が子のような存在であり、成長を促す働きかけを積極的に行っている。
「海外に行くのはハードルが高いですが、身近で小さな挑戦をするだけでも新たな発見や気づきが得られるはず。自分で意識改革できる人が増えれば、日本の国力が浮上するきっかけになると考えています」
現状維持は衰退である――。数々の偉人が遺してきた言葉だ。栗山氏もまた、成長を止めないため変化に食らいつき、険しくとも挑み続ける道を選ぶ。