ゼネコンや施主から信頼を集める取り組み
「我が社は建設業界の中でも老舗企業の一つですが、その長い歴史を支えてきた根底には、創業者の“信用第一”という社訓のもと、安全で安心できる快適な生活空間づくりを求め続けた歴代社長のまっすぐな思いがあったからに他なりません。だからこそ業界では類を見ない新たな工法の開発にも果敢に挑戦してきたのです」
熊本氏の言葉にもあるように、同社の強みを語るうえで欠かせないのが、新たな工法を開発する企業努力の積み重ねだ。これまでも軽量鉄骨の使用や無溶接工法など、今の業界では当たり前とされている工法を次々と開発し、どこよりも先駆けて実施してきた。
また、その開発努力は工法だけに留まらず、現場で使用する建築部材の開発にも力を入れてきたことが同社の特色の一つ。施工業者であると同時にメーカーとしての機能も持ち合わせることで、現場管理に至る一連の業務のクオリティを上げ、多くのゼネコンからも厚い信頼を集めている。
「もちろん全ての建築部材を自社開発しているわけではないですが、施工会社なので現場の作業員から生の意見を取り入れることができます。それは当社にとって開発のヒントであり、施工のクオリティを上げるチャンスでもある。それが建築部材や工法の開発力を高めてきた要因に繋がっているのではないでしょうか」
実際に同社はこれまで、先に述べた軽量鉄骨の使用や無溶接工法のほか、様々な工法や建築部材の開発を手がけてきた。1927年には日本初の軽量下地材の生産を開始し、1986年には大規模天井無足場工法を開発。今では一般的となったビス付きハンガーの導入や耐震天井なども同社がパイオニアだ。
また社内には設計部が設けられ、アルミやスチール、ステンレスなどの金属工事の受注を可能にするだけでなく、新しい建築部材の開発ができる体勢も整えられている。そうした企業努力が功を奏し、安定した仕事量を確保。現場の作業員にも十分な仕事の供給ができ、どんな時代の経済状況にも左右されることのない筋肉質な事業モデルを着々と作り上げてきた。
3Kと言われない職業を確立するために
しかしその一方で、「業界全体の課題にも目を向けていく必要がある」と熊本氏は言う。「建築業界はこれまで、様々な危機的不況を迎えてきました。廃業や倒産により働き手が減り、今なお業界全体の入職者は減少傾向にあります。今後は高齢化がますます進み、作業員の減少は歯止めがきかない状況に陥っていくでしょう」
そうした問題意識から同社では、作業員に対する十分な報酬の確保や労働環境の改善にも努めてきた。スーパーゼネコンと呼ばれる大手から中小ゼネコンに至るまで、様々な取引網を有し、独自の技術開発力とマネジメント力で資金面や仕事量を安定させてきたことも、そうした改善を最優先としてきたからこその取り組みに他ならない。「全ては現場あっての仕事ですから、もっと作業員に向けて利益を還元していく動きが業界全体で高まっていくべき」だと熊本氏は語る。
実際に同社の改善への取り組みは雇用促進を後押しし、優秀な人材が集まる好循環を生んでいる。国会議事堂や日本銀行本店、東京スカイツリーや東京ミッドタウン、東京都庁や大阪国際空港など、受注する物件が著名な建築物も多いことも、求職者がやりがいを感じる一因にもなっているのだろう。
とはいえ、人口減少や高齢化に拍車がかかった今の日本では、人材の確保はそう簡単に避けて通れる課題ではない。実際に熊本氏も外国人労働者などの活用に踏み切るしかないことに一定の理解を示したうえで、また違った視点からの試みを続けているところだ。
2002年には中国本土に新事務所を設立したほか、ベトナムのゼネコンであるHOABIN社と共同で現地法人を立ち上げるなど、日本の施工技術を世界に向けて発信していく事業に着手。近年は防音材などの専門工事業者となる旭ビルト工業を子会社化するなど、M&Aによる事業拡大も加速させている。さらなる多角化を図りながら、総合内外装企業としての足場を固めていく狙いだ。
「そのためには人材確保が一段と必要になるかもしれませんが、安全で安心できるクオリティを下げるつもりはありません。当社では作業員の多能工化を図ることで、単に人材の数に頼るのではなく、質を上げていくことに注力していきたい」
様々な建設需要に応じたマルチな人材を育てていくことが今後の焦点にもなっていくだろう。これからも社会に必要とされる企業であるために、建築業界の“当たり前”を塗り替える挑戦はまだまだ続いていく。