画像はイメージです。
弁護士活動と並行して
法曹養成や経営戦略支援に尽力
企業法務や知財事件から離婚や相続問題、そして刑事事件まで、幅広い分野を手掛ける金野志保はばたき法律事務所代表の金野志保氏は約30年に及ぶキャリアのなかで、自身の弁護士としての仕事や事務所の運営と並行して、プロボノを含むさまざまな活動を行ってきた。
97年に女性初の最高裁判所司法研修所の教官補佐に就任するなど、キャリアの前半は法曹養成に関するものが多かったが、それ以降主に携わってきたのはダイバーシティおよびコーポレート・ガバナンス関連だ。
なかでも注力しているのは、女性社外役員の普及について。自らも05年にヤフーの社外監査役に就任したのを皮切りに、これまでさまざまな企業の社外役員を務めてきた。
「ヤフーの社外監査役になったきっかけは、ネット関連の研究会でした。私は96年に出産して、それを機にワーキングマザー仲間が集まるサイトに運営サイドとして参加するようになったのですが、ちょうどそのころから当該サイトを含め、名誉毀損や著作権侵害などネット上のトラブルが問題になり始めていました。そこでその問題について勉強するために入った研究会でヤフーの方と知り合い、声をかけていただいたのです」と語る、金野志保氏。
就任を機にコーポレート・ガバナンスについての勉強を始めた氏は、海外では当たり前のように女性があらゆる組織の意思決定の場にいて、そのことがガバナンスの強化につながっていることを知り、日本だけが世界に取り残されていることを強く実感した。そして近い将来に日本でも女性の役員が必要とされる時代がくると思った金野氏は、いくつかの団体に、女性役員候補者名簿をつくってはどうかと呼びかけた。
「でも思っていたよりも反応が悪くて。ならばそういう時代が来たときに備えて、自分だけでも研鑽していつその時代がきてもいいように準備をしておこうと思い、積極的に勉強を続けてきたので、実際にその時代が来たときにすぐに社外取締役に就任することになりました」
企業経営の場に女性を送り込み
日本経済の“失われた30年”を回復する
アベノミクスの中で女性活躍が推進されたことを機に、近年になってようやく金野氏が予想した時代が到来しつつある日本。しかし現状はまだ十分とは言えない。その理由は、女性役員がなぜ必要なのかについて、正しい理解が得られていないことも1つの原因ではないかと金野氏は語る。
「女性役員が必要なのは、組織の監督機能を高め、かつ、イノベーションを促すためなんです。グローバルな競争が当たり前の時代に、組織がその時代に即した健全な状態であるかをチェックし、新しい価値をつくりだすには、より多様なものの見方、今までとは違った視点をもった人材が不可欠です。
多様性、ダイバーシティはもちろん性別だけに限ったものではありませんが、人類の半分は女性なわけですから、50%とは言わないまでも、せめて3割は女性が意志決定の場にいて当然かと思います。コーポレート・ガバナンスとダイバーシティを別々のものと考え、ダイバーシティは女性の権利を守るための義務と勘違いしている人は多いですが、そうではなく、コーポレート・ガバナンスのためにはダイバーシティが重要で、目的が共通の部分があるんです」
現在、金野氏は日弁連では男女共同参画推進本部の委員、さらにそのなかの社外取締役プロジェクトチームの座長を務めている。このPTでは、内閣府からの依頼を受けて14年から女性社外役員候補者の名簿をつくり、女性社外役員の起用を望む企業がいつでも利用できるようにしている。
「私が最初に名簿の提言をしてから10年近く経ってしまいましたが、これを作りたかった、と嬉々として名簿作成事業に参加して熱心に活動していたら、16年から座長になってしまいました(笑)」
PTでは名簿に登載される弁護士の研修メニューの作成のほか、名簿および女性社外役員の必要性についてのPR活動も行っている。
「女性役員を社外から入れることについては批判もあります。もちろん生え抜きの女性役員が増えることが望ましいのですが、これまでそういう人材を育ててこなかったので急にプロパーからの役員を選ぼうとするとなかなか難しい側面があります。当面は社外からでも入れて女性の目を通して女性が活躍しやすい風土をつくっていくことも大切だと考えています」
名簿の例をはじめとして、主張しても理解を得られなかったことが、時を経て必要とされるという経験を幾度もしてきたと語る金野氏。
「例えば女性活躍推進についても、弁護士となった91年ごろから『少子高齢化に伴って労働力としての女性が絶対必要な時代が来るのに、なぜ女性活躍推進への取り組みを国を挙げて行わないのかな?』と思っていました。自分としては都度当たり前だと思うことを言っているだけで、気負って先読みをしているわけではないのですが。ただ、そうした経験を重ねたことで、やっぱり自分が正しいと思っていることは遠慮せずにどんどん発信しないといけないなと反省しています。いかに早く、受け止められやすく伝えるか。社会においても企業経営の場においても、それがこれからの私の課題です。まずは企業経営の場にどんどん女性を入れて監督機能を高め、イノベーティブな取り組みを行うことで日本経済の“失われた30年”を回復し、日本経済ひいては世界経済を活性化したいですね」