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木下淳之
KINOSHITA ATSUSHI

木下淳之

オロル株式会社 代表取締役社長

世界で唯一のステンレス発色技術によって、
世の中に新しい価値観を提供する。
「内閣総理大臣秘書官になることが私の夢でした。会社を継ぐなんて全く考えていなかったんですよ」と語る、オロル株式会社代表取締役社長の木下淳之氏。大学卒業後、15年以上議員秘書を務めてきたが、2009年の民主党政権誕生時の選挙で、仕えていた議員が落選。その責任を取る意味もあって、秘書を卒業した。
木下淳之 画像はイメージです。
10年後も生き残るために求めた独自の技術

転身のきっかけとなったのは、故郷・鳥取でメッキ加工と表面処理の家業を営んでいた父や兄からの誘い。祖父が興した株式会社アサヒメッキは当時兄が継いでいたが、後継者がいないこともあり、戻ってこないかと声をかけられたのだ。

こうしてアサヒメッキに入社した木下氏。現場で一から仕事を覚えることとなり、めっき技能士の資格を取れという父や兄と大げんかになった。

「現場には優秀な社員が多くいる。私はすでに40歳を超えていて、彼らに追いつくには10年はかかる。何の意味があるのかと。しかし『文句を言うなら結果を出せ』と言われ、やってやるぞと奮起しました」

メッキ工場は夏暑く、冬寒い。たちまち体重は12キロも減り、重い資材を持つ手は腱鞘炎になった。過酷な現場の中で、木下氏は問題点を見出しつつ、一つひとつ改善していった。

「当時の現場では、ひとつの機械に製品を入れたら、出てくるまでみんな立って待っていました。その間に、次の準備やメンテナンスなどできることがある。それまで工程管理が全くできておらず、原因追及のシステムもなかったので、そこを改善して能率をアップし、無駄な残業を減らしたんです」

 ”結果を出した“木下氏は、続いて会社や業界の課題に目を向けた。
「メッキ業者は、メーカーの下請けである加工業者のさらに下請け。常に”待ち“の体質が染みついている。それが悔しかったし、将来もこれで食べていけるのかという不安もありました。そんなとき、勉強のために訪れた展示会で、様々な会社が特許や大手企業への納入実績をアピールしているのを見て、ぜひ当社も独自の技術に挑戦したいと思ったんです」

研究開発のための資金はない。そこで国の補助金を活用することにした。そして、議員秘書時代に築いた人脈を活かし、全国の見識者を訪ねて協力を仰いだ。その努力が実り、13年には「あらゆるアルミ素材に適応し、かつ毒物を使用しない表面処理技術の開発」が中小企業庁の戦略的基盤技術高度化支援事業、通称サポイン制度に採択。事業化と特許取得にも成功した。この技術は18年に第7回ものづくり日本大賞中国経済産業局長賞、20年には発明協会会長賞も受賞している。

こうしてアサヒメッキの知名度を上げることに成功した木下氏は、さらに新しい独自技術の開発を模索した。その結果生まれたのが、世界で唯一の色調均一化を可能としたステンレス発色技術「Ororu(オロル)」だ。

「弊社では、以前から介護用機器に用いるステンレス鋼の電解研磨を手がけていました。『stainless』の名前通り、錆びにくく耐久性があることが長所ですが、銀白色の金属感が強く、冷たいイメージがするのでインテリアには好まれない。温かな色合いも作り出せたら、活用の幅が広がると思いました」

木下淳之
ステンレス発色技術で新しい価値観を創造

ステンレスの着色方法には塗装やメッキもあるが、耐食性を損なわずに発色させられるのが、数十ナノメートルのごく薄い酸化皮膜で覆う、化学発色処理と呼ばれる表面処理技術だ。酸化皮膜の厚さを変えることで光の反射度合いが変わり、様々な色がついたように見える。しかし、従来の技術では厚さの制御が難しく、ロット間の色ムラやバラツキが大きかった。

木下氏は再び人脈を駆使し、表面処理の権威を探して日本中を巡った。そしてプロジェクトの体制を整えると、15年にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の中堅・中小企業への橋渡し研究開発促進事業の公募に挑戦。山陰圏の企業としては初の採択を勝ち取った。

「私は専門家ではありませんが、必ずできると信じて尽力しました」と語る木下氏。苦労の末、ステンレスに含まれるクロムの量をコントロールすることで酸化皮膜の厚みにムラをなくし、均一な色調をつくる技術開発に成功。この技術をブランド化すべく、18年に表面処理専門の新会社「オロル株式会社」を立ち上げた。その後も技術開発を進め、光沢ありのオロルⅠに加え、半光沢のⅡ、光沢なしのⅢ、指紋がつきにくいⅣと、バリエーションを増やしていった。特にⅡとⅢは、オロルが誇るオンリーワン技術だ。

すでにオロル処理のステンレスは高級自動車メーカーにも採用が決定しているが、今後はその認知度をさらに高めていくことが課題だと語る木下氏。

「一般的にはまだ、ステンレスは銀色というイメージが強い。それを打破するために、どんどん提案をしていきたい。新製品はもちろん、既存の製品もオロル処理を採用することで新しい価値観を創造できます。介護用ベッドからハイブランドのバッグや時計まで、世界中の街で温かく彩り豊かなステンレスが見られるようにしたいですね」

木下淳之

オロル株式会社 代表取締役社長
https://ororu-inc.co.jp
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。