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現場の自主性を尊重する環境が会社を成長させる
関東甲信越と九州の各地域で20店舗の飲食店を運営するサンクワーク。東京の会社でありながら、店舗の場所は福岡市、熊本市、鹿児島市、長岡市(新潟)、高崎市(群馬)、深谷市(埼玉)など、地方や郊外を中心に広範囲へ展開している。業態は、居酒屋が中心だが、九州産の地鶏、産地直送の魚介、郷土料理、韓国料理、黒毛和牛など、料理のジャンルも店舗のスタイルも幅広いことが特徴だ。
「従業員の自主性を尊重しているため、業態や店名、メニューの内容なども含めて、すべての運営は現場で働く人たちに任せています。私が口出しすることはありませんが、経営者として売上などの数字が悪い場合は指摘します。その数字を上げるためにはどうすればよいのかを考え、アイデアを実行するのは店長をはじめとした店舗のスタッフというわけです。彼らの挑戦がそのまま事業の広がりや会社の成長に繋がる、そんな組織づくりを目指しています」
こうした考えの根底にあるのは、働く場としての飲食業界をよくしたいという想いだ。そのために「五方よし」という基本方針を掲げ、「関わるすべての人たちの幸福を願い、社会に必要とされる企業を目指す」ことを企業理念にしている。「五方よし」とは、「売り手によし、買い手によし、世間によし」を表す近江商人の「三方よし」の対象に、食材などを仕入れる取引先、従業員とその家族を加えたもの。従業員に対しては一定の条件を満たせばグループ内で独立できる子会社制度があり、これまでに3人が子会社の経営者としてキャリアアップを果たした。
「食材をできるだけ安く仕入れるのは商売の鉄則ですが、無理に値引きをお願いしたところで信頼関係は生まれません。コロナ禍では取引先が親身に寄り添ってくれ、仕入れ業者も含めてひとつのチームだと思っています。また、帰宅時間が遅いことや休日を一緒に過ごせないといった理由で、従業員のご家族が苦労されることが多いのも飲食業界の課題です。しかし、奥さんや子どもがいるから頑張ることができるわけで、労働環境の改善などによって、ご家族の方々にも応援してもらえるような会社にすることが重要だと考えています」
現在、アルバイトを含めて約300名の従業員を抱え、業績は3期連続の黒字を達成。勝又氏がサンクワークをスタートさせたのが2019年であることを考えると、企業として順調に成長してきた。2025年9月には、これまで店舗がなかった東京都内に初の出店を果たしたが、選んだ場所は都心の繁華街ではなく東武東上線の東武練馬。地元の人たちが足を運ぶローカルなエリアが多いのも同社の強みになっている。
従業員が未来を切り拓くことのできる会社でありたい
1983年生まれの勝又氏は早稲田大学卒業後、不動産デベロッパーの日本綜合地所(現大和地所レジデンス)に入社。営業職としてよい成績を上げていたが、やりがいを感じることができず、充実した社会人生活ではなかったという。そんなときに、学生時代のアルバイト先の先輩が飲食の会社を立ち上げることになり、誘われる形で転職。SV(スーパーバイザー)、営業部長、事業部統括本部長などを経験し、グループの独立支援制度を活用して子会社の社長に就任した。
「先輩の会社もその制度でつくった子会社で、それなら自分でも会社をやってみたいと思いました。当時の飲食業界の労働環境はあまりよくなく、自分で会社をつくれば大きく変えられると思ったのです。経営は順調でしたが、親会社との間で方針の食い違いが生じるようになりました。その頃、飲食関係の会社であるサンクワークを経営していた父が引退したいということで、2019年に私が会社を引き継ぐことになりました。一緒に仕事をしていた仲間もそのままサンクワークに移り、以前と同じ飲食業として完全に独立しました」
しかし、事業計画は上手く進まなかった。子会社時代に運営していた飲食店は最も多い時期で25店舗ほどあったが1店舗しか買い取ることができず、もともとは前職で面倒を見てくれていた先輩の会社の店舗に人材を派遣することを想定していた。その後、新型コロナウイルス感染症の流行が拡大し、緊急事態宣言が出て当初の計画は頓挫。身動きが取れなくなったところ、先輩が自身の会社で運営していた6店舗を譲ってくれることになったものの、従業員数に対して店舗数が圧倒的に足りなかった。
「自己資金で出店できる場所を全国規模で探し、結果的に居抜き物件を中心に出店。以前の店舗にできるだけお金をかけず、自分たちでできることを実践して収益化を図りました。最初に譲ってもらった店舗のほとんどが九州だったので、必然的に九州に出店することが多くなりました。東京の会社ではありますが、地方や郊外に店舗が多いのはそのような経緯があるためです。こうした戦略がうまく成長できた要因ではないかと思っています。」
コロナ禍でも店舗数を着実に増やしていくなかで、勝又氏が痛感したのは人の力だったという。多くの人たちや仲間である従業員の力によって、サンクワークは倒産することなく存続し続けてきた。「このうち、どれかひとつでも欠けていたら今はなかったかもしれません」と、勝又氏は当時を振り返る。飲食を通して人の人生をよくしたいという考えは以前からもっていたが、倒産寸前まで追い詰められたこの時期の経験によって、企業理念は「五方よし」を核としたより強固なものへと形づくられていった。
「今後は100店舗・100億円を目標に掲げていますが、会社を大きくしたいということより、従業員が出世や昇給、経験、成長を求めて頑張ることのできる環境を用意することが目的です。子会社をつくって独立したい人だけでなく、海外に出店したい、別事業を立ち上げたいといった声があれば、その挑戦を後押しするつもりです。私にとって事業の目的は人を幸せにすること。飲食業界でそのような会社は決して多くはありませんから、その実現を本気で目指しています」