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柏瀬光寿
KASHIWASE MITSUTOSHI

柏瀬光寿

医療法人柏瀬眼科 理事長

眼科診療を通じて統合医療にアプローチし、
究極的には“医者が必要ない世界”の実現を目指す。
栃木県足利市にある柏瀬眼科。一般的な眼科診療に加え、斜視弱視診療や近視進行抑制診療、ロービジョンケアなどにも力を入れている、県下では数少ない眼科医院だ。近年は人間が本来備えている自己治癒力によって病気を治す統合医療に関心をもち、これを治療に活かしたいと語る柏瀬光寿院長の挑戦をご紹介しよう。
柏瀬光寿
画像はイメージです。
大きな糧となったインド・ダラムサラでの医療活動。

「私は、昔は医師になることが嫌でした」と語る、医療法人柏瀬眼科理事長の柏瀬光寿氏。柏瀬家は江戸時代から代々医業に携わってきた医師の家系で、光寿氏は8代目になる。
「1928年に私の祖父が当時としては珍しく眼科を標榜して当院を設立しました。それ以降は眼科医で、私で3代目となります。そんな家系ですから、幼少期から『お前は医者になるんだ』と、家族だけでなく近所の方からも言われ続けていました。それが嫌で、どうにかそのレールから外れたかった」

高校生のときには、落合信彦氏の著書を読んで政治に関心をもち、政治家になりたいと考えたこともあったと言う。「そこで3年生のときに母親にそう告げたたところ、『医者になっても政治家にはなれるけど、政治家になってから医者になるのは難しい』そして『お前は一人二人を騙せても、国民を騙せるタマじゃない』と言われました。それを聞いて『確かに!』と納得してしまったんです」
そして94年に東京医科大学を卒業し、同大学病院眼科医局に入局した柏瀬氏。医師にはなったが、将来的に実家の眼科医院を継ぐことについてはまだ抵抗があった。

そんな柏瀬氏にとって、自分なりの道を模索するなかで大きな成長の糧となったのが、NPO法人アジア眼科医療協力会(AOCA)が73年から行っている、医療施設のない地域での野外開眼手術活動「アイキャンプ」への参加だった。柏瀬氏は97年からネパールでの活動に従事した後、2000年にインド北部のダラムサラに赴いた。
チベット亡命政府およびダライ・ラマ14世の住居があることで知られるこの街で、柏瀬氏は文化や環境の違いに苦悩した。

「設備も器具も揃わないので、診断をしても治療ができないこともあります。自分ができると思っていたことは、自分の実力ではなくて、大学病院という環境があったからだということを思い知らされました」
アイキャンプの実施期間は約5日間だが、よりよい診療を行うには現地の人の信頼を得ることが重要で、そのためには腰を落ち着ける必要があると感じた柏瀬氏は、大学医局を退職してダラムサラの病院に勤務することに決めた。
「当然、当時の院長である父からは猛反対されましたが、帰国後に柏瀬眼科に入ることを交換条件として許してもらいました。地元に帰って開業医になる前の最後の足掻きでしたね」

柏瀬光寿
西洋医学と他の医療の強みを併せた統合医療を目指す。

柏瀬氏は02年から約1年間ダラムサラで医療活動を行い、帰国後に約束通り柏瀬眼科副院長に就任した。そして06年に院長となったが、年末年始のAOCAが主催するアイキャンプへの参加は継続している。期間中は4人の医師で300~400人の患者を診察し、うち50~75人ほどについては白内障などの手術も行う。
「まだ環境が不十分なので、うまくいかないこともあります。『日本だったら治せるのに』という悔しさは何年やっても消えない。しかしその悔しさを味わって帰国することで、よりブラッシュアップできるんです。また向こうに行っている間は、医療行為だけに集中できます。ある意味純粋に医師になれる、自分にとっては大切な時間です」

日本での眼科院長としての柏瀬氏は、視覚障害者のロービジョンケア、子供の斜視弱視外来や近視進行抑制治療など、他の眼科医があまり手をつけていない分野を積極的に行うようにしている。
「重箱の角にある仕事を敢えてやることにしています。箱の真ん中にある本道ももちろんやりますが、そこは多くの人がやっているので、私たちがその周辺を埋めることで、結果として箱全体をカバーできればよいと考えています。また子供達に盲導犬と触れ合ってもらうことで、小さいときから偏見をなくして親しみをもてるようにするためのセミナーや、視覚に障害があっても耳と心で楽しめる落語会などを行なっています。費用対効果はよいとは言えませんが、多くの“和顔”に出合えます」

さらに柏瀬氏は、眼科医としての枠を超えた大きな夢を抱いている。それはすべての病気を治しきったうえで、病気にならないように予防し、かつ病気になっても自己治癒力で治せるようになる世界を作ること。
「そのために、今まで学んできた西洋医学だけでなく、統合医療にも目を向けて、バイオレゾナンス医学会や日本気導術学会に入会して勉強しています。西洋医学は、人間の身体全体ではなく各臓器を診て、そこを中心に診断や治療を行うことが多く、根本的な病気の原因を究明したり、予防するという考えが乏しい。一方で西洋医学の手術や抗生物質などの薬剤は素晴らしい治療法であることは事実なので、それらと他の医療の強みを併せた医療を行っていきたい」

そこで来院した患者に対して、目の診察と併せて体全体の健康状態について問診を行うなどのアプローチをはじめているという。究極の夢は、“医者が必要ない世界の実現”だと語る柏瀬氏。
「いま私が目指している癒療を、創立100年までに種から芽を出させ、創立120周年までに花を咲かせたい。そして創立200年には夢でなく現実になっていることを祈っています」

柏瀬光寿

医療法人柏瀬眼科 理事長
https://kashiwase.com
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。