Powered by Newsweek logo

上本宗忠
KAMIMOTO MUNETADA

上本宗忠

医療法人一燈会かみもとスポーツクリニック 院長

多職種連携によるけがのトータルサポートが、患者の主体性を促しつつ回復に導く。
整形外科やリハビリテーション(以下リハビリ)と密接な関係にあるスポーツ医学。
昨今は、理学療法士や柔道整復師といった多職種間の連携がより重視されるようになった。こうした取り組みに以前から力を入れているのが、栃木県佐野市にあるかみもとスポーツクリニックである。
院長の上本宗忠氏は「トータルサポート、トータルケア、トータルネットワークという3つの“トータル”がコンセプト」と診療方針を話す。
上本宗忠
画像はイメージです。
トータルサポートでより効果的なアプローチ

整形外科、内科、リハビリテーション科を標榜する同院は、2名の医師を筆頭に20名以上のスタッフが在籍。主に小学校高学年から高校までの子供のスポーツに起因するけがの治療をおこなっている。最大の強みは多職種の連携が生み出す、細やかで充実したサポート体制にある。

「私の専門は、関節の周囲に小さな穴を開け、内視鏡を挿入して治療する関節鏡視下手術です。膝前十字靱帯損傷や肩関節唇損傷など、さまざまなけがを診ています。術後は柔道整復師が炎症管理や骨折の整復などを行い、次に理学療法士がリハビリを通じて、機能の回復や筋力強化などを実施。最後にアスレチックトレーナーがトレーニングを指導し、以前より高い能力を身に付けて競技に復帰してもらいます。こうした診療をトータルサポートと呼んでいます」

けがの原因は患部だけにあるのではなく、足首の靭帯損傷であれば膝や股関節、体幹などにも目を向けて全身を診るというトータルケアの考えも導入。さらに、治療に対する方針を患者本人以外にも理解してもらうため、監督やコーチ、両親にも診察室に入ってもらい、情報を共有するトータルネットワークという試みもはじめている。

「トータルサポートでは、各職種が互いを尊重しながら連携し、同じ目的に向かって取り組むことが重要です。開院当初は理学療法士もおらず、試行錯誤しながらこの形に辿り着きました。また、スポーツでケガをした孫を連れて来る祖父母からの要望により、トータルケアの考えで高齢者にリハビリを行ったところ、子供たちと同様の効果がありました。現在は高齢者を含めた大人の患者さんも増えています」

上本宗忠
人への教育や人との繋がりを大切にし、支え合える社会に

上本氏は自治医科大学卒業後、義務年限のために故郷の鳥取県でさまざまな診療科で経験を積み、整形外科医の道を志した。10年後に妻の出身地でもある栃木県に戻り、母校の大学院へ進学した折に整形外科に入局。同大附属病院では週に1回のスポーツ外来をはじめた。

「当時の環境では思うような診療を実践するのが難しく、思い切って開業することにしました。理想的なリハビリができるようになったのは、2013年にPFCC(プレフィールドコンディショニングセンター)という全天候型のスポーツ施設をつくってからです。実際に走ったり、蹴ったり、投げたりといったトレーニングができる場所で、復帰直前まで患者さんをサポートすることができます」

ここでは医師とスタッフが体の動きをチェックし、動画を撮影するなどして情報を共有。
トレーニング内容を提案し、患者自身の気付きから体の使い方を変えることで復帰を目指す。さらに、アスレチックトレーナーに活躍の場を提供するため、クリニックの隣に独立したスポーツ施設であるKCP(かみもとコンディショニング&パフォーマンス)を設立。医学に基づいたトレーニングが受けられる場所として、スポーツジムのように利用されている。

「一般的に、患者さんは注射を受けなさいとか薬を飲みなさいとか、医師からの指示によって受け身になりがちです。しかし、体の状態に自分で気付き、どうしたいのかを考え、それをサポートするのが目指すべき医療の姿なのではないかと思っています。そして、患者さん自身が変わることでよくなっていくーーそんな医療を目指しています」

現在、上本氏が注力しているのは人の育成だ。父が教師だったため、教職を目指していた時期もあった。上本氏は、患者である子供たちに、従来は家庭内でのしつけだったことを叱って教えることもあるという。自分によくしてもらうためには、相手にどのように接するべきかということを考えられる人間に育ってほしいという思いからだ。
昨年からは、子供たちに適した運動を学校で専門家が指導する認定スクールトレーナー制度がはじまったが、上本氏のクリニックでは4年前から体育の授業に理学療法士を派遣している。

「小学校の授業に関わるようになったのは、子供たちのけがが増えたことがきっかけです。遊ぶ場所や時間が減ったことで、体の使い方が分からないまま運動してしまい、けがが発生するのです。授業を通じて運動の方法を理解するようになり、自ら気付いて変わることを体験できる機会になっています」

ほかにも PFCCやKCPを核にしたコミュニティづくりや、同じ志をもつ医療機関と連携し、子供たちが他の地域に引っ越しても同様のサポートが受けられるネットワークの構築など、力を入れていることは多々ある。

「人への教育や人との繋がりを大切にすることで、お互いを支え合えるような社会に変わることを切に願っています」

上本宗忠

医療法人一燈会かみもとスポーツクリニック 院長
https://www.kamimotosportsclinic.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。