高校・大学を中退し、プロを目指す選手の養成所を運営
2023年は侍ジャパンのWBC優勝にはじまり、慶應義塾高等学校が107年ぶりに夏の全国高等学校野球選手権を制するなど、大いに沸いた野球界。大谷翔平選手の育ての親・栗山英樹監督の指導力や慶應義塾高等学校の自由な髪型など、試合展開以外の面にも注目が集まり、旧来型の組織風土や“指導の常識”が大きく変わろうとしていることを印象付けた。
「今の指導者に求められるのは、選手の個性を尊重し、自主性を促すこと」。こう語るのは、株式会社BEZEL代表取締役・上市裕史氏。BEZELはフィットネススタジオ運営を中心に、プロスポーツ選手や指導者の育成、鍼灸治療院運営、健康補助食品の販売など、運動や健康に特化した事業を展開する企業。
事業の一つであるBEZEL sports academyは、日本野球連盟クラブチームに加盟し、本気でプロ野球選手を目指せる養成所だ。高校や大学の野球部を中退した選手も多く、大分県別府市を拠点に元プロ野球選手の指導で練習に励むことができる。
「プロになるには中学・高校・大学の野球部に所属し結果を出すことが“常識”と考えられていますが、監督の指示で動く軍隊のような部活動は合わない子も多い。その結果、十分な資質や能力をもっているにもかかわらず、退部して夢を諦めてしまう選手が後を絶ちません。一方、海外のスポーツ界では通信制高校に通う有望選手はたくさんいます。BEZEL sports academyを通して、いろんな生き方の可能性を知ってほしいと思います」と上市氏は言う。
2023年度卒業生の進路は独立リーグ2名、海外の大学への野球留学1名、就職1名と、発足4年目で着実に成果を上げつつある。特待生として台湾への野球留学を勝ち取った選手は高校を中退しており、BEZEL sports academy在学中に高校の卒業資格を取得したという。
そんなBEZEL sports academyの指導方針は、「指導しない」こと。中学・高校の野球部に入部すると、多くの場合は監督やコーチから与えられた練習メニューをこなす。
一年生は率先してグラウンド整備や片付けを行い、上級生の言うことは「絶対」だ。
BEZEL sports academyでは、これらを全て禁止。練習メニューは自ら考え、キャプテンが取りまとめて監督に報告する。もちろん目上の人を敬う気持ちは大切だが、プロを目指す以上、練習中の上下関係は一切関係なし。
最も年上の選手が率先してグラウンド整備や片付けをすることで、それを見た後輩が自主的に手伝う雰囲気が生まれるという。
「指導者から言われたことに従うのではなく、自ら意見を出すことを徹底しています。そうすることで考える力が付き、人間としてとても成長します。中学・高校で教わった感覚がなかなか抜けない選手もいますが、周りの先輩の姿を見て学び、徐々に慣れていきます。環境は本当に大事ですね」
答えを与える形で指導する「ティーチング」ではなく、相手の自主性を尊重しながら答えを引き出す「コーチング」を基本姿勢に置いている。