
悪習を断ち切ることがよい保育につながる。
寿台氏は姉妹法人である学校法人正雲寺学園の理事長も兼ね、名古屋市内で認可保育園7園、認定こども園1園、小学生のアフタースクール1校を運営。大切にしているのは、保育が好きでこの仕事に就いた職員が、仕事を楽しむことのできる環境にあることだという。
「この業界はシフト制が多いのですが、保育士不足で徹底することが難しいのが現状です。労働環境が厳しく、結婚すれば退職するのは普通。産前産後休暇や育児休暇を取ることも難しい。それだと若い人は将来像を思い描くことができません。ですから、そういった悪習をすべて断ち切ることにしたのです」
完全シフト制の実施によって職員は余裕をもって仕事に取り組み、休日は趣味や家族、パートナーのために時間を費やす。プライベートの充実は仕事に好影響を与え、子どもたちに質の高い保育を提供することに繋がる。毎年2~4名の職員が産休や育休を取得し、ほとんどの職員が時短勤務で復職。こうした結果をもたらす考えに至ったのは、これまでの経験が大きい。
「物心ついた頃から、実家の正雲寺が運営する保育園や幼稚園が近くにあり、いつかはここで働きたいという思いがありました。ただ、息子だから継ぐということに違和感があったのも事実です。仏教の勉強をするために入った大学は、2年生のときに中退。今しかできないことをやりたいと思ったからです」
当時、海が身近にある生活に憧れていた寿台氏は、石垣島への移住を決意。今も年間40~45日はサーフスポットとして知られる伊良湖を訪れて「遊ぶために働け!」を実践する、根っからの海好きだ。
1年ほどの石垣島生活を経て栄寿福祉会へ入職したが、理事長に就任した当初は、先代である父や保護者、地域の人たちの顔色をうかがってばかりだった。これでは本当にやりたいことはできないと、改革を決意する。
「定員60名の保育園は、毎年10名が入れ替わります。その保育園に通える地元の子どもたちは推定200名ほどですが、実際に入園するのは10人だけ。つまり、地元の中で八方美人的な振る舞いをしても意味がないと気付いたのです。職員には、2割でいいから自分たちのファンをつくろうと伝えました」
寿台氏が行った改革はもうひとつある。20代前半から50代半ばまでの、あらゆる年齢層の職員を採用したことだ。保育業界では、結婚・出産を経験した保育士が復職することは稀で、職員の年齢構成がいびつになってしまいがちだった。
「よくあるのは、20代の独身の職員と40~50代のベテランがいるパターン。ベテランが指示を出して、20代の職員が動く。でも、これでは働いている人たちは楽しくはないですよね。大事なのは、ベテランが抜けても保育の質が落ちることがなく、誰が退職しても一定以上の質を常に維持できる体制をつくることです」
改革はこれだけにとどまらない。2018年には、小学生対象のアフタースクールを開校。背景には、子どもが小学校へ進学した共働きの家庭が、育児と仕事のバランスをうまく取ることが難しく、子どもの習い事が土日に集中しがちなために家族の時間も取りにくいという悩みがあった。
「この問題に対応できるよう、授業の後に安心して過ごせる子どもたちの”学び場“を提供したいと思いました。ダンスや英語などの多彩なプログラムも用意。塾や習い事の教室を兼ねるオールインワン型にすることで、週末は家族での時間を大切にしてほしいという提案です」