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井野口哲
INOGUCHI AKIRA

井野口哲

株式会社Alchemist 代表取締役

クライアントと共生できる信頼関係を構築し、
独自のネットワークで中小企業の再生や承継をサポート
新型コロナウイルス禍対策として2020年3月から中小企業向けに導入された、いわゆる「ゼロゼロ融資」。その返済が23年8月から始まった。資金繰りに窮する会社が続出しているなか、企業の事業再生や事業承継に尽力しているのが、株式会社Alchemist(アルケミスト)だ。
井野口哲
画像はイメージです。
企業承継やそれを前提とした企業再建に注力

「悪い言い方をすると世の中を衰退させているのは、会計事務所なんじゃないかと、社内で話題になることがあるんですよ」と語る、株式会社Alchemist(アルケミスト)代表取締役の井野口哲氏。2007年に設立された同社は、グループ内に税理士法人Alchemistも有し、税務会計および申告代理から、相続相談、業務改善の経営コンサルティング、生損保活用の財務支援などのコンサルティングまで、幅広く中小企業を対象とするサポート業務を行っている。

特に近年力を入れているのは、企業承継やそれを前提とした企業再建の案件だが、井野口氏がクライアントからの相談を聞いていて感じるのは、中小零細企業の経営者の相談に親身になって考えてくれる顧問の会計事務所や金融機関が少ないということ。
「中小零細企業の経営者が、高齢になって事業承継について考えるとき、まず相談するのが顧問契約を結んでいる税理士さんだと思います。しかし相談に対して適切なアドバイスがされていない税理士さんが多い。承継対策といっても、株を動かすだけだったりします」

事業承継は、所有と経営を分離させ社内の体制、取引先との関係も含めて承継しなければ事業を引き継いだことにならない。経営全体を把握する視点が必要となる。しかし、高齢の経営者の顧問税理士さんは同様に高齢である場合が多く、会計業務の領域以外は考えていないことが多い。また金融機関も、現在の関係性を変えてしまうことを恐れ、承継対策を積極的に進めないことが多いと井野口氏は語る。

「承継はしたものの、内部で対立が起き、経営がうまくいかなくなって、結果、事業が衰退してしまうケースも多い。また近年では中小零細でも経営者の家族以外の方が後継者になる企業も増えていますが、あらかじめ自己株式取得などの対策を練っておけば比較的スムーズに承継できる。これを先送りにしているうちに、経営者の方が亡くなってしまうこともあります」
その結果、遺産分割協議に従って後継者ではない家族に相続されてしまうことで、承継がより複雑になってしまう。会社がしっかり組織化されていない、年商1億円以下の家族経営の企業にそういうケースが多いそうだ。

井野口哲
業界にとらわれず、新しい事業に挑戦

中小企業を対象とするサポート業務をメインにしているのは、独立前に勤めていた会計事務所での経験が大きかったと井野口氏は語る。
「専門学校を卒業後、千葉県内にある大手会計事務所に入所して税理士補助として働いていたのですが、初めて担当を任された会社が資金繰りの工面で事業どころではない会社だったんです」
それを機に税務会計を通して中小企業のさまざまな経営問題の解決に携わり、やがて事業再生の分野も担当するようになった。そしてそうした業務を行うには会計事務所では限界があると感じて独立に至ったと言う。

創業当初こそ売上げゼロだったものの、現在では16名の社員がコンサルティングや税務会計、ファイナンシャルプランニングに携わり、クライアントは企業約200社、個人約250人に及ぶ。
「企業理念は『相利創生』。巡り合った人との縁を丸くつなげ、互いに協力して、新しいものを生み出したい。クライアントに対しては、ネットワークを組んでいる弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁理士などと協力し合い、さまざまな面でバックアップします。また提携している金融機関による融資のご相談もお受けしています。こうして提携先と一緒にサポートする体制を取っていることが私たちの強みです」

江戸川区という土地柄、クライアントの多くは建設業や製造業。中小零細規模の企業がメインだ。「半ばボランティアになってしまう場合もありますが、困っている方のお手伝いをして、成功報酬をもらう方が『共にある』という感じが得られます」と井野口氏は語る。
思いついたらやりたくなってしまう性分だと言う井野口氏は、近年では業界に捕らわれず、新しいことにも挑戦している。そのひとつが遊休地の有効活用だ。その一環として、クライアントの遊休地を草刈りを条件に無料で借り、養蜂を始めた。コロナ禍で外出できない中、広い屋外での蜂の世話は社員にとってちょうどよい気分転換になったと言う。
「採れた蜂蜜を近所やクライアントに配ったら、とても喜ばれました。現在は希望者には採蜜体験をしていただいたり、巣箱を提供したりもしています」

事業承継のトラブル等を数多く目にしてきただけに、自身はあと5、6年で一線を退くことを決めていると語る井野口氏。実際に周囲に宣言し、後継者の人選も進めている。現在も提携する金融機関との共催で事業承継についての勉強会を開いたり、地元の異業種交流会や法人会に招かれて事業承継や相続について話すことも多い井野口氏だが、引退後はそうした啓蒙活動に力を入れていきたいと言う。
「事業承継のサポートをする会社がきちんと事業承継できないのはダメですから。困っている会社さんのお手伝いをしながら私たちも成長し、スムーズに後継者に引き継ぐこと。それが私の当面の目標であり、挑戦です」

井野口哲

株式会社Alchemist 代表取締役
https://ac-alchemist.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。