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幾嶋泰郎
IKUSHIMA YASURO

幾嶋泰郎

医療法人幾嶋医院 院長

掌紋医学や西洋手相を取り入れた漢方で、患者の精神分析を行い、心身のバランス回復を目指す
症状に対して検査などを行い、病名を突き止めて治療を行う西洋医学に対して、人間の体全体を総合的に観察して診断を行う東洋医学。西洋医学は人間の心と身体は別のものと考えるが、東洋医学には「心身一如(しんしんいちにょ)」という概念があり、心と身体は切り離せないという考えを基本とする。この概念に基づいた漢方を実践しているのが、福岡県柳川市で漢方内科と婦人科を標榜するいくしま医院の幾嶋泰郎院長である。
幾嶋泰郎
漢方の本質は患者の潜在意識と対話すること

漢方には望診(外貌や舌の状態を見る)、聞診(聴覚と嗅覚で判断)、問診(自覚症状などを聞く)、切診(脈や腹部などを触る)を総称して四診という診察方法がある。幾嶋氏は約25年前に、この四診に手相を見るという方法を加えた独自の診察方法を考案。手のひらの無数の線と9つの丘(指の付け根の膨らみ)の状態から患者の精神分析を行い、問診を補完する。この診察方法によって、西洋医学や一般的な漢方でも症状が治らなかった人たちからも相談が寄せられている。

「例えば動悸が治まらないというパニック障害の患者さんの場合、手相から心配性であることが分析でき、そういう人は漢方における五臓のひとつである腎が弱い場合があります。腎は不安な気持ちと関係があり、腰から下を担当している臓器なので、腰が痛くなることもあります。実際に患者さんに聞いて、腰痛があることがわかった場合は、腎に効く漢方薬を処方することで、腰の痛みや不安感が軽減され、症状が緩和された例もあります」

漢方には、自然界に存在するあらゆるものは木、火、土、金、水という5つの要素から成り立つ五行説という考え方がある。さらに、人間も自然界の一部と考え、身体の働きを五行説に当てはめ、肝、心、脾、肺、腎の5つに分けた考え方を五臓論という。これらの五臓は西洋医学の肝臓や心臓を指しているわけではなく、その他の働き方を含めたより広い機能を意味している。

「東洋医学では臓器と感情は密接に関わっているとされ、漢方では病気と関連する感情を怒、喜、思、憂、悲、恐、驚の7つに分類しています。臓器によって感情がコントロールされる場合もあれば、感情が臓器に影響を及ぼすこともあります。そして、肝は怒、心は喜、脾は思、肺は憂と悲、腎は恐と驚がそれぞれ関係しています。過度な怒りは肝を害しやすく、肝とは血液や気などの流れをコントロールするところなので、イライラする、気分が晴れないといった症状が現れます」。

一方の西洋医学にはカナダ出身の精神科医、エリック・バーンが提唱した交流分析の理論に基づいて、バーンの弟子であるジョン・M・デュセイが確立したエゴグラムという性格診断テストがある。人間の自我をCP(厳格な父のような支配性)、NP(優しい母のような寛容性)、A(落ち着いた大人の理論性)、FC(自由な子供のような奔放性)、AC(従順な子供のような順応性)の5つに分類し、それぞれの尺度を測る。

「五臓論とエゴグラムの概念は一致します。例えば、怒と関係する肝はCPに相当し、厳格な人は怒りっぽいものです。また東洋医学には掌紋医学という、手のひらの掌紋を見て診断するという分野があります。そして、五行説、五臓論、エゴグラム、西洋手相、掌紋医学の関係性を調べたところ、すべてがリンクしていることが分かりました。西洋手相における9つの丘は、掌紋医学における臓器と一致し、精神状態によって起こる症状を診るには、手相による精神分析が、症状との関係性を考察する手がかりになると考えています」

幾嶋泰郎
標準的な医療では救えなかった患者に寄り添う

柳川市で生まれ育った幾嶋院長は、川崎医科大学卒業後、福岡大学を経て久留米大学産婦人科へ入局。しかし、研修期間中に球脊髄性筋萎縮という難病が発症し、臨床医への進路が阻まれてしまう。その後、生命保険会社で診査医として働き、1999年に父が営んでいた産婦人科のクリニックを継承。翌年には介護事業にも参入し、現在はデイサービス、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、住宅型有料老人ホーム、訪問介護の各事業も行っている。

「当初は手術も出産も行わない無床診療所として、患者さんの話をよく聞くという診療方針で再スタートしました。なかでも治すのが難しい更年期障害の患者さんを中心に診療を行っていました。父の時代は痛み止めの注射を打つ治療が中心でしたが、以前から関心のあった漢方薬を処方したところ、これらの症状が緩和されたと感じる患者が見られました。さらに、論文の執筆に忙しかった久留米大学時代に気分転換で勉強していた手相を取り入れて、独自の診察スタイルが確立しました」

以来、婦人科や内科だけでなく、皮膚科、耳鼻科、小児科、外科、整形外科、呼吸器内科、循環器科、消化器科、精神科、泌尿器科など、さまざまな診療科の患者が訪れる。幾嶋院長の診察は患者の潜在意識との対話を中心とし、それによって患者はこれまでに気付かなかった自分の精神状態に向き合うことになる。そして、患者自身が意識を変えることが、症状の軽減につながることもあるという。患者の自立を援助するように寄り添い、ゆくゆくは漢方薬さえ使わない医療が幾嶋院長の目指すゴールだ。

「最近増えたと感じているのが“隠れ冷え症”です。冷えを自覚していないのが特徴で、詳しく聞いてみると、動悸がする、不安を感じる、抜け毛が増えたなどの冷え症による症状と合致します。例えば、起立性調節障害という朝起きられないなどの症状が見られる疾患があります。西洋医学では自律神経の異常による低血圧が原因とされますが、私は冷えが原因だと考えています。実際に体を温める漢方薬を処方すると症状が改善する場合も一定数あり、こうしたことも広めていきたいと思っています」

さらに力を入れていきたいこととして挙げたのがオンライン診療である。漢方の診察で特に重要視される脈診と腹診はそれぞれ脈とお腹を診るため、一般的な漢方医はオンライン診療に積極的ではない。しかし、幾嶋院長は手相が脈診と腹診の代わりになると考え、舌診と問診、手相によるオンライン診療を行っている。実際に東京をはじめとした全国から相談があり、手応えを感じているという。

「標準的な西洋医学では8割の人が治り、2割の人は治らないというのが私の経験上の実感です。この2割の人は東洋医学や漢方に助けを求めますが、ここでも2割の人は治りません。つまり、100人の患者さんがいれば、20%のうちのさらに20%にあたる4人には、標準的な西洋医学や漢方ではなく、これまでとは異なる観点でアプローチしなればいけません。その答えが私にとっては、手相を取り入れた漢方だったのです」

幾嶋泰郎

医療法人幾嶋医院 院長
https://www.ikushima.or.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。