画像はイメージです。
ボトムアップによって組織の改革を促す
「女性活躍やダイバーシティが叫ばれる中、フラームジャパンが目指すのは『理想論』ではなく『自然なキャリア形成』。企業の多様性風土を醸成し、それに耐えうる個々の能力の底上げをして、目指すキャリアを実現できる社会にすることがミッションです。
女性に限らずこれまで採用してこなかった人材をマイノリティととらえ、人材のポテンシャルを活かしきることができるような組織へと変革のアクセルを踏むことが必要です。フラームジャパンは、女性活躍のロールモデルを多数輩出することで、ボトムアップからの本質的な風土改革を行っています」と語る、飯嶋氏。
同社は製薬会社などのヘルスケア企業に対する女性活躍のためのコンサルティング事業、人材サービス事業を展開している。主に組織のボトムアップに活躍するのは、製薬企業の中で人員構成の8割を要するMRと呼ばれる、医療用医薬品の情報提供者。
「業界に限らず、営業職の女性比率は少ないのですが、製薬企業のMRは、15%程度とさらに低い。しかし女性MRの多くが実績を残しています。だからこそ、どうすれば女性を多く採用できるかという課題は、私がこの企画を作り始めた10年ほど前から現在も変わりません。各社が常に女性の人数を増やそうと躍起になっているのです」
しかし成果を上げるのは容易ではない。ダイバーシティのコンサルティング企業の多くが研修や組織デザインの一部を提供しており、最難関である女性の採用と定着の両方を直接的に支援はしていない。他の製薬への人材サービス企業も、早期離職によるビジネスリスクを恐れて、女性の雇用促進に消極的だった。
その環境下で、フラームジャパンは、人材サービスを事業の根幹におき、真っ向から最難関の課題と向きあう姿勢を作った。しかも、人数を補完するための派遣にとどまらず、多様な人材が活躍できる組織への変革を促す、ボトムアップ変革までも手がけている。
「コンサルティングがベースにあるので、なぜ女性を採用する必要があるのか本質的な目的を明確にでき、それをクライアント内で言語化、社内をアクティブに進化していくことができます。女性MRなら営業管理職として活躍していける風土づくりまで協奏していきます。また彼女たちの情報を元に、組織に必要な女性活躍の施策を割り出していきます。それをトップへ投げかけ、一緒に必要なプログラムを作って解決に向けていく。その結果、多様性をもったESG経営ができる組織への生まれ変わりを目指すとともに、女性たちのポテンシャルも伸ばしていきます。それが遠回りのようで、実は一番確実で近道になります」
こうしたメイン事業のほか、今年からはキャリア女性をターゲットとしてヘルスケアアプリの制作に関わるなど、フェムテックを単に女性のヘルスケアとITというだけでなく、女性キャリアの点から構築する事業も手がけている。
人的イノベーションで日本を変えていきたい
飯嶋氏は2017年にフラームジャパン株式会社を設立するまでは、外資の製薬への人材サービス企業に在籍し、アジア大洋州の採用責任者として採用企画や採用マーケティングを担当していた。「グローバルチームをマネージしたことで、より客観的に日本の現状を消化できた」と言う。
「当時前職の競合にあたる企業も、女性の活用にはかなり消極的でした。『女性をクライアントに紹介すると迷惑がかかる。すぐやめるから』という理由でしたが、そんな理由が社内でまかり通り、さらにクライアントも納得してしまう、という事態。私にとっては異次元に思える環境でした。そういう状況の中では、女性が活躍するどころか、人数すら増えない。日本で女性の雇用を生み出すことが、いかに難しいことかを肌で感じました。ただ、グローバルチームの多様性のなかでこの現状を見たからこそ、道筋が見えたのかもしれません。これだけダイバーシティへの取り組みが企業に求められる中で、人が生きることに直結するヘルスケア産業に女性視点を入れようとも思わないことに危機感を抱いていました」
フラームジャパン設立直後、女性の出産・育児ブランクからの復職プログラムを開発。それが業界内で大反響を呼んだ。
当時は子供を産んだ後に営業職として復帰する女性は皆無に等しい状況でした。しかし、そのプログラムがどんなに“女性雇用創出”という意味で社会貢献に意義があったとしても、クライアントにとってもその導入は非常にチャレンジングなことでした」
障壁を分析し、一つ一つクリアにし、組織変革につなげる。現場チームがなぜ理解できないのか、それをトップにフィードバックし、ディスカッションを繰り返していくことで、徐々に形になってきたという。
「頭で描く美しいシミュレーションとは違って、個人のバイアスや仕事・会社への価値観、個人の考え方の本質部分にとことん向き合うことは、難航する作業の繰り返しでした。人を扱っているので、イメージ通りに進むことはなかったですね。追い風は、グローバリゼーションが進むなかで、一人一人が徐々にダイバーシティを認識し始める時期と重なったことです。そのため、需要は多いですが、途中で音を上げ、女性活躍のプログラムが自然消滅するクライアントもいました。それだけ、ハードなチャレンジです」
今後の社会や経営を見据えて、まだない組織を形にしていく事業。飯嶋氏のゼロから物事を作り上げてきた創造力と想像力は果てることがないのだろうか。
飯嶋氏は今後についても意欲をあらわにする。
「フラームジャパンは5年目に入り、設立当初はどこもやっていなかったこと、むしろそんなことができるわけない、と馬鹿にされていたようなことが、5年たった今はスタンダードとして受け入れられるようになってきました。フラームが提唱する価値が、それ以降の世界の『スタンダード』となっていっていることに非常に手ごたえを感じています。
キャリア女性という概念自体がまだ完成していないと思っているので、それを活かしたフェムテックの発展や、日本社会へボトムアップから浸透させていくことが当面の目標ですね」
これからも「CHALLENGING INNOVATOR」 として羽ばたく姿を見せていただきたい。