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平井俊旭
HIRAI TOSHIAKI

平井俊旭

雨上株式會社 代表取締役

日本の地方にある価値を見つけ出し、
「人やお金を循環させる仕組み」をつくる。
地域再生のスローガンの元、さまざまな地方で試みられている、地域のブランド化。外部の立場からではなく、現地に入り込んで自ら住人となり、ブランディングによる地域の活性化を行っている平井俊旭氏。平井氏が設立した雨上株式會社、株式会社共立の挑戦とは。
平井俊旭
地域が持つ自らの価値に気づき、
効果的に伝えることができれば循環が生まれる。

地域や企業のブランディング、デザインディレクションを行う雨上(あめあがる)株式會社。平井俊旭氏が滋賀県高島市に同社を設立したのは約6年前のことになる。同氏はそれまでスープ専門店「Soup Stock Tokyo」を運営するスマイルズでブランドのグラフィックや店舗テザインなどに携わっていた。

そして店舗内装に使う国産木材を求めて全国を回るうちに、自らの価値や可能性に気づいていない、またはそれらをうまく伝えることができないでいる地域がたくさんあるということを実感していた。

「デザインするという行為は、情報を整理して最も効果的に価値を伝えるコミュニケーションを行うこと。その理解が進めば、滞っている取組みや事業が循環し始める可能性を秘めていると思っています」と語る平井氏。

スマイルズではデザインディレクターとして赤字経営だった会社が100億円企業に成長する過程に立ち会ってきた。そしてそこで得た経験を地域で活かしてみたいと考えた時に巡り合ったのが、高島市だった。

「国産木材について知るために参加した三重県紀北町の林業塾で、岡山県で林業を主軸にした町おこしをされている牧大介さんと知り合いました。彼は当時高島市で林業6次産業化のコンサルティングもされていて、話を聞いて興味を持ちました」

早速高島を訪れてみた平井氏は、京都から車で1時間足らずという立地的なメリットがあり、大きな魅力を持ちながらもそれを発信できていないという印象を抱いた。それは氏が地域活性の実践の場に求めていた条件にぴったりだった。

「そこで求められてもいないのに(笑)、企画書を作成し、牧さんに市の職員を紹介してもらいました。そして会社を登記し、数カ月後には高島市に転居していました」

そして市のコンペを経て、高島市の地域資源のブランド力向上に関するふたつの事業の受託に成功した平井氏。ブランディングに際して考えたのは、まずは市民自身に地域の魅力を知ってもらうことだった。

平井俊旭
現地に入り込んで、住人と同じ目線で感じ、
考えたことを実践で証明して変化を確かめたい。

「ブランドというものは、デザインや仕組みだけつくってもうまく機能しない。根底に自分たちはいいものをつくっているのだという信念がなければ続かないのです。高島市の人はよく『ここは何もない』と言うのですが、自分が育てた米で麹をつくり、野菜や琵琶湖で採れた魚を漬けて食べる文化があったり、また琵琶湖の中に鳥居がある白鬚神社など見所もある。昔から住んでいる人にとっては当たり前なので、特別なこととは感じていなかったんですね」

そこでオリジナルウェブサイト「高島の食と人〜3つの◯◯〜」を構築するなど、さまざまな取り組みを行っていった。さらにその過程で出会った班家(ばんが)食品の洪代表との共同出資で、2019年に株式会社共立(ともだち)を設立した。

「班家食品は親会社のOEMが本業の食品加工工場ですが、代表は以前から独自ブランドとして孫に食べさせられるような食品をつくりたいという願いを持っていました。始めはブランド開発を依頼されたのですが、売れるか分からないものにディレクション費を請求しづらいし、事業を立ち上げても誰が運営するのかという問題がある。手間は同じなので、こちらもお金を出し、運営までまとめてやらせてもらうことにしました」

その結果生まれたのが「10%Iam(テンパーセントアイアム)」だ。漬物を漬けおいて発酵のプロセスを経ることで旨味をつくり出す食品という解釈でとらえ直し、現代の食生活に求められる“次世代漬け物”を提案。化学調味料ではなく発酵によって味をつくったさまざまな製品を販売している。

「無名の存在としてスタートしましたが、昨年12月には月の売り上げが100万円前後になりました。今後は積極的に地産の食材を使い、ラインアップを増やしていきたいですね」

地方のブランディングを行う会社は数多い。しかし雨上のように対象地域に移って事業を興すところは珍しい。もちろんその理由はリスクがあるからだ。

「外部の立場なら、引き渡して終わり。成果が出なくても責任を問われません。しかしそうして責任の所在が曖昧なことで消滅するプロジェクトも多い。地域の仕事は、住人が増えたとか、経済的な循環がうまくまわるようになったとか、結果が伴って継続できないと意味がない。私は現地に入り込んで住人と同じ目線で温度感を感じ、考えたことを実践で証明して本当に変わるかどうかに関心がありました。自分が行ったことで高島市の現状を変えられたかどうかはまだわかりませんが、おもしろいことをやっている人達が自分とつながったことで連携ができ、新しい取り組みが生まれる。そういうきっかけになれればいいと思っています」

今後はこれまでの経験を反映し、新しい取組みを地方に増やしていきたいと語る平井氏。2021年4月からは島根県立大学に新しく設置される地域政策学部地域政策学科地域づくりコースの講師も務める。
「次世代を担う学生に、地域をおもしろくするさまざまなきっかけを提供してきたいですね」

平井俊旭

雨上株式會社 代表取締役
https://ameagaru.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。