Powered by Newsweek logo

日沼友和
HINUMA TOMOKAZU

日沼友和

株式会社日沼工務店 代表取締役

「家づくりは人づくり」を理念に人を育て、高機能住宅で東北に地域活性化をもたらす。
夏は蒸し暑くて冬は寒い。そんな東北の天候に合わせ、1963年の創業以来、快適な暮らしを提供するための住宅をつくり続けている株式会社日沼工務店。3代目の代表取締役を務める日沼友和氏は、「家づくりは人づくり。お客様に驚きと感動をお届けするために、人材育成に力を注いでます」と、組織力を高めることの重要性を説く。
日沼友和
画像はイメージです。
独自の工法で冷暖房費が約半分の高機能住宅を実現。

秋田県秋田市に本社を構え、秋田県、岩手県、宮城県に本店と3つの営業所を展開。約60名の社員を抱え、木造軸組工法(在来工法)の注文住宅に特化した家づくりを特徴とする。一番の強みは、HAVE-S工法という独自の工法だろう。断熱には、柱や梁などの間に断熱材を入れる充填断熱(内断熱)と、構造体の外側に断熱材を貼り付ける外張り断熱(外断熱)がある。一般的にはどちらかを採用するが、HAVE-S工法は機能性を高めるために両方を併用したダブル断熱になっている。

「外断熱ボードを施工後、内側から発泡断熱材を施工。経年劣化により起こる可能性のある外断熱の断熱欠損については、外断熱ボードの継ぎ目を斜めにカットしVの字に突き合わせ、発泡断熱材を充填。一体化させることで、長期に渡る高い断熱性、気密性確保を実現しています。さらに床下から外周の壁の中、各部屋、小屋裏までの空間全体を空気が循環する独自開発の換気システムを採用しているのが、HAVE-S工法の主な特徴です」。

気密性が非常に優れているためキッチンでガスを使用することができず、オール電化を選択。計画換気によって、常に新鮮な空気が循環するため壁内結露を防ぎ、カビやダニといったアレルゲンの発生を抑制する。夏も冬も外気の影響を受けにくく、少ない台数のエアコンで全館冷暖房が可能になった。その結果、冷暖房費は一般的な木造住宅に比べて約半分になるという。

「他社が真似しにくいのは、木造建築の構造上、胴差(上階と下階の境界に使う太い水平材)などの外周部に空気を循環させるのが難しいためです。弊社では木材のプレカットの段階で独自加工を施して、通気性を向上。住宅は一部の機能性に注目するのではなく、すべての要素をトータルで考えたときに、いかに安全で快適に過ごせるかが重要です。カタログの数字だけでは判断できないところもあり、これまで蓄積してきたノウハウが重要になってきます」。

日沼友和
いい家をつくり続けることが地域を幸せに導く。

そんな家づくりの姿勢は、厳しい気候の中で住環境を少しでもよくしたいという顧客に寄り添ったところから始まっている。日沼氏は大学卒業後、東京に本社を構える住宅メーカーに就職し、山形県内で営業マンとして奔走。そのときに顧客との人間関係を大切にし、誠実に向き合うことで「日沼さんだから契約した」という言葉をもらい、ビジネスの本質を見極めた。

「注文住宅をメインに手掛けているのは、建物に合わせて人が暮らすのではなく、家族によって異なる生活様式や将来像を考慮した家に住む方が幸せになれると思うからです。差別化という点では、家具をトータルコーディネートして提案。現在は弊社でトータルコーディネートした家具まで標準仕様にした ”グルーヴィン”というライフスタイル提案型住宅が主力商品となっており、受注の9割を占めております」
家を建てた後に、理想のインテリアにしたくても上手くいかず、苦労されているお客様がたくさんいらっしゃったことがきっかけです。
これは日沼氏の社長就任後から始めたサービスで、そのためにトレンドに敏感な若手社員の意見を取り入れられるように、トップダウン型だった体制を変更。風通しをよくする一方で、企業理念や12カ条の行動指針などを浸透させ、社員一人ひとりがやらなければいけないことを明確に提示。さらに3カ年計画を発表し、社員全員が会社の経営状況を把握することで、売上に対する意識も大きく変わった。その結果、業績は堅調に推移しているが、業界や地域の課題も浮き彫りになってきた。

「少子高齢化が進む日本で、秋田県は人口減少率が最も高い自治体です。空き家問題がクローズアップされる中、私たちは住宅の寿命を延ばす技術を磨いてきました。例えば1981年の建築基準法改正後に建てられた住宅なら、空き家をリノベーションして中古住宅として販売するのも解決策のひとつ。そして、人材確保も秋田県全体が抱えている大きな課題です」

そのために、動画を制作して仕事内容や社内の雰囲気を的確に伝えられるようにしたり、求人媒体の訴求内容を吟味したりするなど、採用活動を積極的に展開。あわせて勤務体系を見直し、新たに退職給付制度を導入するなど、労働環境も改善していった。もちろん、最も重要なのはいい家をつくることだという。

「自分たちがつくる家がいいものだと評価されれば、一人ひとりがプライドをもち、多くの人たちに提供することができる。すると社員の給与だけでなく、仕事を発注している職人さんの賃金も上げられる。そして、いい人材が集まり、さらにいい家を広めることでき、こうした連鎖が地域を活性化するのではないかと期待しています」
まずは年間棟数を100棟まで増やす計画だ。実現できれば主要エリアでの存在感が高まり、日沼工務店の高機能住宅が東北のスタンダードになっていく可能性も一段と高まるだろう。

日沼友和

株式会社日沼工務店 代表取締役
https://hinuma.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。