
それぞれの心のうちにある“円満”とは?
日本では毎年20万組以上の夫婦が離婚する。結婚歴や世代などを問わず、夫婦であれば誰にとっても離婚問題は対岸の火事ではないだろう。最新の弁護士白書(2019年版)によると、夫婦の問題が裁判所にもち込まれた“夫婦関係調整調停事件”の数は、2018年には43,286件あった。そのうち弁護士が関与した割合を見ると、半数を超える約51.7%。約10年前までその関与割合が20%台で推移していたことを考えると、いまや離婚問題を弁護士に相談することは、多くの人にとって当たり前になっているとも言えそうだ。
同時に、最近では離婚問題を専門的に扱う法律事務所や弁護士も増えているが、なかでもその活躍と異端ぶりで大きな注目を集めているのが、“円満”離婚弁護士こと原口未緒弁護士だ。
原口氏は2002年に、難関の旧司法試験に五度目の挑戦で合格。司法修習を経て2004年に弁護士となった。弁護士を目指した理由は、「満員電車に乗りたくなかったから」。「会社勤めじゃない仕事は何かと考えたら、父のような弁護士しか思い浮かばなかった」と、屈託なく笑う。
弁護士としての新人時代は東京の中規模法律事務所に勤め、30歳の時には一度目の結婚を経験。お相手は裁判官で、浪人時代に知り合った勉強仲間だった。しかし様々なすれ違いもあり離婚し、その後は北海道の紋別へ。弁護士過疎地域を支援する取り組みとして日弁連が公設した紋別ひまわり基金法律事務所に、4代目所長として赴任した。
「流氷が流れてくる田舎町でしたが、人口4万人の地域に弁護士は私だけ。当時はブームになっていた過払い金の問題から刑事事件まで、依頼者のためにあらゆるトラブルに対応する。まさに弁護士の原点のような経験をさせてもらいましたし、二度目の結婚したのもこの頃。相手は、私が弁護した刑事事件の被告人でした」と原口氏は話す。
二度目の結婚を機に札幌へと移り自らの法律事務所を開設するが、結婚生活自体は約1年で破綻。しかしこの頃に原口氏は、二度の離婚という自らの経験を活かし、離婚問題を強みとする弁護士になることを決意する。
「私の両親も離婚しているのですが、夫婦関係が悪くなったのは私が中学生の頃。母は別れたくなかったのですが弁護士の父と裁判になり、これ以上は長引かせても仕方がないということで、泣く泣く離婚に応じるといった形でした。弁護士として何がしたいかと考えたとき、そんな母のような人の助けになりたいなと。母は今も父との離婚について納得していませんが、もしかすると彼女が納得できる他の形があったのかもしれません。これは他の依頼者の方にも言えることですが、法律ではこうですよ、慰謝料の相場はこうですよなどと言われても、すべての人がそれで納得できるわけじゃない。あのときの母にとって、何が納得できる形だったんだろうと考え続けるのと同じように、依頼者に寄り添いながらそれぞれの納得に導いていく、そんな弁護士になりたいと考えたんです」