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船橋謙一
FUNABASHI KENICHI

船橋謙一

有限会社総和運輸 代表取締役

若手ドライバーを積極的に育成しつつ、
運送料金よりサービスの質で勝負する。
東京港を拠点に、トラックによる運送業務を行う有限会社総和運輸。国内貨物の他、国際貨物にも力を入れており、海外から海路で輸入された海上コンテナの陸送も手がけている。運送先は関東一円を中心に、ときには北海道から沖縄まで日本全国の倉庫に大型トレーラーで貨物を下ろしに行く。船橋謙一氏が同社の代表取締役に就任したのは2003年だが、それは順風満帆にはほど遠く、逆風からのスタートだった。
船橋謙一
画像はイメージです。
サービスの質を維持することで会社を再建

「元々運送会社は父が経営しており、私は大学を卒業後、その取引先であるトラックディーラーで整備士として働き始めていました。ところがその翌年、父の会社に7億を超える借金があることが判明。父の会社の従業員の方々には昔からかわいがってもらっていましたし、その人たちを路頭に迷わせるわけにはいかない。そこで父の会社に転職した後、立て直しを図るために役員をしていた姉と共に同名義の新会社を設立して、代表取締役に就任したのです」

その際に旧会社の債務も引き継いだため、資産の売却を行いつつ、毎月600万円もの負債を返済していかなければならなかった。しかし、幸いドライバーたちが辞めずに新会社についてきてくれたため、地道に業務を続けることで会社を再建することができたという。

「弊社では、安売りはしないようにしており、その代わりに効率化を徹底しています。運賃を安くして仕事を取ろうとしていくと、価格競争に巻き込まれてドライバーの賃金も減らさざるをえない。ドライバーは走って稼ぐ仕事なので、そうなると疲れていても長く乗車しようとするんです。結果、寝坊や事故が増えて、お客様に荷物が届けられなくなるという悪循環に陥りやすい。弊社は価格競争に参加しなかったので、一時は安い運賃の会社にお客様が流れて仕事が減った時期もありましたが、やがて戻ってきてくださいました。サービスの質を保ち続けたことで、お客様の信頼が得られたのだと思います」

21年6月には、すべての負債を返済し終えた総和運輸。再建を実現した船橋氏が6年ほど前から力を入れているのは、若手ドライバーの育成だ。

「弊社は勤続年数の長いドライバーが多く、50代以上のベテランもたくさんいます。ただベテランの経験は頼りになる反面、車の運転という業務において加齢による衰えは無視できません。依頼が増えて仕事をさばききれなくなった際にドライバーを増員する必要があったのですが、先のことを考えて、経験者を募るよりも若手を一から育成しようと考えました」

そこで、15年にはドライバー志望の新入社員に対して大型自動車免許の取得支援を開始し、地方から出てくる若者のための社宅も品川区に用意した。そうして毎年数名を採用してきたが、20年から21年にかけては毎月1~2名、1年足らずで実に13名を社員として迎え入れた。

船橋謙一
ドライバーが笑っていられる環境をつくりたい

「元々“来る者は拒まず”で希望者を受け入れていましたが、昨年から応募が増えたのです。コロナ禍で多くの業界が大きなダメージを受けましたが、運送業に関してはまったく逆。ネットショッピングが増加したためか物流量が増え、業績も大きくアップしました。それで、この仕事が若者の目に留まるようになったのでしょうね」

とはいえ、受け入れがスム―ズにできているのは、以前から若手育成の体制を整えてきた賜物だろう。未経験の新人ドライバーは、最初はベテランドライバーの横に乗って仕事を覚え、早ければ3カ月、遅くとも半年程度でひとり立ちするという。1年前に入社した新人も、次々と”モノになっている“と船橋氏は語る。

「教える側と教えられる側にも相性というものがあります。ベテランと新人を組ませる際には、普段の会話などから判断して、できるだけ相性のよいペアにしています。今後も、新しく入った社員が定着し、次の若い子を引っ張ってこられるように工夫していきたいですね」

運送会社はドライバーあってこそ。事故なく貨物を届けて帰ってきてくれるドライバーには、ただただ感謝しかないと語る船橋氏。新人、ベテランを問わず、ドライバーとコミュニケーションを取ることを積極的に心がけている。

「ドライバーは、毎日一人でずっと運転席にいなければなりません。渋滞や待ち時間もあり、ストレスは相当なものがあります。それを少しでもリセットできるように、今年から毎朝の点呼時に一人ひとりのドライバーと会話する時間をつくるようにしています。ドライバーたちからは『社長、たぶん3カ月もたないでしょ』などと言われましたが、今も続けていますよ」

その甲斐あってか同社の離職率は低く、若手が入ったことでベテランも刺激を受け、よい相乗効果が生まれているという。売上を上げたいとか、会社を大きくしたいという考えでは動いていないという船橋氏。大事にしているのは、常にドライバーに寄り添いたいということだ。

「彼らがいつでも笑っていられるような環境をつくってあげられる会社にしていきたい。それが事故をなくすことにもつながり、結果的に売り上げも伸びていくと信じています」

船橋謙一

有限会社総和運輸 代表取締役
https://www.sw-tokyo.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。