
サービス面での差別化、遠回りでも正攻法
電線リサイクル業は、長らく社会的地位の低い業界であったという。天野氏が営業職として入社したときも、その空気は業界に色濃く残っていた。天野氏は、当時をこう振り返る。「電線リサイクル業界は決して良いイメージがありませんでした。約束を破る人も多く、誠意も感じられない。一方で、縄張り意識だけは強い業界でした。同業者から軽んじられることもあり、違和感だらけのスタートでした」
厳しい状況下だったが、天野氏はひたむきに働き始める。代表取締役社長に就任して以降、組織づくりと並行して、コンプライアンスを策定。そして、サービス業としてのホスピタリティを社員に浸透させながら、競争社会の中で生き残れる体制を整えていった。
結果、会社の業績は順調に回復。地元・千葉県内では、9割のシェアを獲得。さらに、関東、東北、北海道、中部、関西、そして中国地方まで取引先を広げることにも成功した。旧態依然とした業界で、取引先を一気に拡大するのはハードルが高かったのではないか。尋ねると、天野氏は笑って、こう答えた。
「電線リサイクル業は地元意識が強く、地域外の業者は新規参入しにくい。それぞれに独自のカルチャーがあって、外から入ってきた業者が単価競争をしかけたら当然のように波風がたつ。こうした軋轢を避けるためにも、我々はその土地の相場に合わせた金額設定でビジネスを展開しています。地域に受け入れてもらいながら、仕事を増やしていくイメージです。人柄、営業努力、料金設定といったことではなく、サービス面でしっかり差別化を図ることで、営業部員も充実感を感じることができる。遠回りに見えますが、このスタイルで獲得した取引先とは、継続的なお取引になるケースが多いのです」
同業他社との共存共栄の精神で、関東のネットワークを築いていった天野産業。ここ数年は、その人脈を生かし関東の同業者が一堂に会する機会を設けることにも成功した。業界初となる電線リサイクル同業者会議の開催である。外資の参入など、業界の存続にかかわるような問題について、率直に話し合った。
「当初は、不相応ではないかという思いもあったのですが、2年前、同業者が廃業するのを見て迷いが消えました。業界として手を取り合っていれば、廃業せずに済んだかもしれない。同業ですから、競争相手であることに変わりはありません。ただ、業界としては、外資の参入、後継者問題など大きな問題を抱えている仲間です。争うのではなく手を取り合って助け合う必要があるのではないでしょうか。コンプライアンスの規約を作り、ブランディングを進め、業界全体としてワンランク上を目指す一翼を担っていきたいと考えています」