患者の希望と医師の治療目標を一致させる
そもそもリウマチは、自己免疫により生じる関節滑膜の炎症性疾患だ。滑膜の炎症により関節の痛みや動かしにくさが生じ、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の低下を招き、社会的負担が大きな疾患でもある。
「しかし主な受け皿となっている大学病院などでは、構造的な問題もあり、どうしても診療時間が限定されてしまいます。4〜6時間待って3分診療というのも日常的な光景でしょう。ただそれでは、満足な治療結果に結びつきづらいんです」
そう話すのは、同クリニックの理事長・統括院長を務める吉田智彦氏だ。自身も聖マリアンナ医科大学を卒業後、リウマチ膠原病アレルギー内科に入局。同分野のエキスパートとして大学病院での勤務経験を積んできた。その中で強く望んできたことが、「もっと身近なクリニックで高度な専門医療を提供し、患者の希望を叶えていくこと」だったという。
「リウマチや膠原病を治療していくためには、患者との的確な意思疎通が欠かせません。そのため診療時間を存分に確保する必要もあります。そして主治医が患者の病状のみならず、生活状況などを事細かに把握すること。それが寛解へ向かう第一歩になるからです」
同クリニックでは、患者が寛解後に病気を忘れ、いかに自分らしく過ごすことができるかを最重要事項に据えている。そのための具体的な試みとして、患者には独自の問診票を記入してもらう。「インプットする作業(問診票を記入してもらうこと)が的確なアウトプット(医療で寛解に向かう成果)に影響する」というのが吉田氏ならではの考えだ。
人手や時間を惜しまず、「患者の希望」を細かく掘り下げていくことから始まる医療。そのため問診票の項目には「特に先生に伝えたいこと」というものから、「最近、大笑いしたこと」などといった、一見、医療には関係のない項目も見受けられる。患者の些細な変化や日常の浮き沈みに気づいてあげることが、病状を知るうえで最も重要なのだという。
挙児希望実現に向けた絆基金の取り組み
そして患者の希望を叶える確かな医療技術も、同クリニックの強みだ。「スタッフ一人ひとりがスペシャリストじゃなくてはいけません」と吉田氏が言う通り、人材教育にも余念がない。所属する全ての医師は「リウマチ専門医」資格を有し、「リウマチケア看護師」資格を持つ看護師、「リウマチ登録理学療法士」資格を持つ理学療法士、医療制度に精通した医療事務スタッフと、全てのスタッフがリウマチ・膠原病について深い知識を持つ。
また、業界全体がボトムアップするための啓蒙活動にも注力してきた。吉田氏自身も学会での講演活動のほか、論文発表や研究会での指導・講演、製薬会社を対象とした社員教育セミナー、患者を対象とした市民公開講座の開催や教育資材の監修、新薬の開発に至るまで、その活動領域を広げ続けている。
「当クリニックがリウマチ・膠原病の専門領域を独占しようとは微塵も思いません。もっともっと患者様を救うためは、私たちのようにリウマチ膠原病を標榜するクリニックが全国に増えていかなければいけませんから」というのが吉田氏の本望である。最近は全国各地から「世田谷リウマチクリニックをモデルケースにしたい」という要望も出始めてきたところだ。
そうした現状に拍車をかけるように、2020年1月には医療の発展や医療環境の整備などを目的とした「絆(きずな)基金」を設立。リウマチ患者の希望として多く聞かれてきた挙児希望実現に取り組み、少子化対策を行うリウマチ専門施設として新たな動きを活発化させている。
「これまでリウマチ・膠原病の分野では、妊娠ができない、妊娠してはいけないと思われていた時代がありました。しかし今、治療技術が発達し、そうした心配は大きく軽減されました。リウマチを患っても安心して出産ができることを知ってもらいたいと思っています」
しかし挙児希望を叶えるためのバイオ治療はとても高額で、経済的な理由で妊娠を諦める患者が多くいることも事実。そこで1〜2年間のバイオ治療費(患者負担分)を無金利で貸し付け、産後5年間で返済するという仕組みを自ら考案した。
2020年7月にはリウマチ・膠原病治療のフラッグシップを標榜する新宿南リウマチ膠原病クリニックがオープン予定と、患者の希望を叶えていくための裾野はさらなる広がりを見せている。「患者さんのために自分たちにしかできないことを挑戦し続けていきたい」と話す吉田氏。その謙虚な眼差しが、リウマチ・膠原病に立ち向かう多くの患者を温かく見守り続けていくに違いない。