医療過疎の地域に求められる医療サービスとは
地方だけではなく、大都市の周辺エリアなど、眼科に限らず医療過疎に陥っているエリアは日本全国にある。そういったエリアの患者は、高齢の方が多く都心まで出て行くことが困難で、治療を断念することも多いという。そうした医療過疎に陥っていたエリアにあるのがトメモリ眼科・形成外科の本院だ。
「白内障治療は以前は入院が必須でしたが、今は技術が進歩し、日帰り手術が可能です。入院設備がなくても高度な手術設備と技術、経験を基に治療を行うことができ、白内障治療を受けられる病院は増えました。遠くまで足を運ばなければいけないことで治療を諦めていた患者さんが、近くにある当院で当日のうちに終わるのなら行こうかなとおっしゃってくださるのは、患者さんの救いの手になっている実感があります」
そう語るのは、理事長の留守良太氏である。
眼科医を目指したきっかけは、眼科を開業した父親の影響である。無事に眼科医になった後は、すぐに父親の医院を継承することはなく、福岡大学病院で経験を積んだ。継承を決意し和歌山に戻った同氏。しかし、まだ自分は若年で学ぶべき知識や経験も多いはずであると考え、実家の本院での勤務に加え、近くの大学病院での非常勤も並行した。症例数が圧倒的に多い大学病院で手術の手技を学びながら、本院の実務を継承していくという多忙な日々を送っていた。
「昼は本院、夜は大学に戻って手術というように慌ただしく行き来する毎日でした。症例ごとに得られる知識や経験は異なりますし、まだまだ医師としてのレベルを上げないといけない時期でしたので、とにかく一生懸命取り組んでいましたから、辛いという気持ちはなかったですね。ありがたいことに2代目ということで当院を知ってくださっている患者さんはある程度いました。さらに、安心して治療を受けていただけるよう、患者さんと親身に向き合い、ちゃんと説明が伝わっているかどうか丁寧に確認しながら治療を進めてきました」
本院の患者は地方ということもあり、高齢者が多い。今度は違う年代の悩みと向き合ってみたいというチャレンジ精神から開院したのが、大阪梅田の梅北眼科である。大阪駅に隣接する、駅周辺で最大のターミナルビル内に開院したこともあり、患者は働き盛りの若年層と中年層が多く、その悩みも眼精疲労やスマホによる老眼などの症例が多いことは予想通りであった。しかし、開院すると予想外の展開を見せた。
「実は都心でありながら医療過疎の場所であることがわかりました。コンタクト処方をメインとするようなクリニックは多数あるのに対し、治療を要する一般診療に長けた眼科が少なかった。働いている方は平日に住んでいるエリアの眼科に通うことは難しく、治療から遠のいてしまうことも多い。そこで、オフィスビルの中にある梅北眼科を選んで相談に来る患者さんが増えていったのです。このニーズには驚きでした」
和歌山で積み重ねてきたことを活かし、都会の若年層と中年層に向けた一般診療を提供するクリニックとして歩み始めたのである。
働き方を柔軟に、医師も患者もハッピーに
トメモリ眼科・形成外科はその名の通り、眼科に形成外科が併設されている珍しい形態である。
「私の妻が形成外科医をしておりまして、私が和歌山に帰ることを決めた際に『それなら、一緒に開院するのはどうか?』という話になったことがきっかけでした。始めてみるとニーズが非常に高く驚きました。白内障の手術をして視力が改善された方が、今まで気がつかなかったシワやシミを見て治したくなる方が多いですね。地方ということで、近所付き合いの距離も近く、最初は他人に知られたくないということで躊躇される方も多くいらっしゃいましたが、クリニック自体が眼科と併設ということで、入りやすさもあるようです。形成外科のスタンスは、悩みを持つ人の気持ちを救い、ハッピーにすること。患者さんをさらに笑顔にできるこの体制は嬉しいですね」
今年、和歌山にもう一つオープンさせた分院にも形成外科を併設し、テレビ電話を使った遠隔診療という新しい診察方法や、予約ができるアプリを導入するなどし、医師が2院を行き来することで治療にあたっている。
IT技術を使って医師の移動や時間の負担を減らし、動きの自由度が増すことで、治療できる数も増える。効率よく診療を受ける患者を増やせたことが、同クリニックの強みだ。
大阪の梅北眼科では、小さな子供を持つ女性医師2名がシフトを交代で組むことで勤務を可能にしている。ライフイベントが多い女性医師にとって、気兼ねなく時間を選んで働ける現場を見つけることは難しい。院としては、2名を雇用することで経費はかかってしまうが、優秀な女性医師2人が交代で院を回してくれることで一般診療を可能にしているというメリットもある。
今では3つの院をグループ化しているなかで、医療サービスのクオリティを並列に保つことにも気を使っている。
「少ない医師をルーチンで本院と分院を定期的に行き来するようなシフトを組んでいます。そうすることで、院をまたいだ情報共有がしやすくなり、互いのレベルを確認し合うこともできるので、グループ全体としてクオリティを保つことができています」
細やかなサービスにこだわる留守氏の今後の目標は、若手医師の育成だという。
「最近では、世界中の症例データをストックし、各国の医師にデータ開示されるサービスも始まっています。手術を行う前と手術中にもリアルタイムで、患者の数値データと、世界中の100万という症例データをオンラインで照らし合わせることで、どの数値を元に手術を行えばベストか、より正確性の高い治療計画を立てることが可能になりました。そういった最新のIT技術を活かすためには、医師の技術も同時に磨く必要があります。都心だけではなく地方に暮らす患者さんも常に新しい医療サービスを選択することができるよう、技術を持った若手の医師を育てていかなければなりません。時間はかかりますが、若手を育てることも自分自身の学びにつながります。自分も成長できる喜びがあり、いずれはそれが患者さんの喜びを生み出す。そんなやりがいを糧に、将来の医療サービスに貢献していきたいと思っています」
新しい技術や価値を先んじて積極的に取り入れていこうという意欲の高い留守氏だからこそ、医師が患者に寄り添い、地域から愛され、地域に根ざす医療を発展させ続けていけるのだろう。