患者の暮らしに心から寄り添う喘息治療
喘息は一般に知られるようになってから長い疾患ではあるが、これといった明確な診断基準がないのが現実だという。正しい診断を目指すには、問診に加え様々な検査結果を総括し、判断をしなければならない。「はっきりと診断をしてもらえないと患者さんは不安になると思うのです。できるだけ確定された診断ができるよう、専門医として検査環境や判断知識を最新にアップデートし続ける努力をしています。また、喘息は継続的な治療が必要で、きちんと治るまで治療を続けてもらうことが必要であり、治癒への壁となっています」と話すのは、統括院長の保澤総一郎氏である。
喘息は慢性病であり、症状がなくなったとしても進行していく疾患である。治ったように一時的に感じることで、通院や服薬を止めてしまう患者が多いことが、患者を救いたい医師にとって大きな課題となっている。
「現在の治療法では、どうしても毎日数回ずつ吸入薬を使用しなければいけないなど、手間を感じる治療法がほとんどです。症状が良くなると、仕事の合間をぬって通院することも億劫になってしまいがちです。できるだけ通いやすい予約システムを導入するなど環境を整備するほか、患者さんと心から向き合い、検査結果に基づく的確な説明と、患者さんの気持ちを汲み取りながら、継続治療の目的や大切さを伝えるように努力しています。いつまで続くのだろうという不安を払拭するためにも、治療のゴールのイメージを患者さんに持ってもらえるように説明時間を多くとることを大切にしていますね」
喘息の原因となるアレルギー因子は多種多様で、喫煙や住居内の様子など生活環境から改善を要するケースが多く、他の内科疾患よりも患者本人の暮らしに寄り添った診療をしなければならない。場合によっては、自宅を訪問し、アレルギーの原因を探ることもあるという。
インターネットを介して情報を簡単に集めることができる昨今では、患者の意識も高まっており、医師としての知識や診療のクオリティも高い水準を求められる。そういった動きのなかで同氏は、患者だけではなく、医師に対しても、喘息の最新事情を伝えるセミナーを行うなど啓蒙活動を積極的に行なっている。アレルギーに関しては、内科だけではなく、小児科や皮膚科、耳鼻咽喉科の医師を対象として、幅広く伝えるセミナーを開催するなど、活動の輪を広げようとしている。
喘息を解明し、新しい治療法を求めて
喘息は決して子供だけの病気ではなく、どの年齢で発症してもおかしくない病気だと言われている。
「住居は、昔ながらの風通しの良い日本家屋から、機密性の高い洋風の住居に変わったことで、換気が悪くなってきています。その室内でペット飼育も増えている。さらにPM2.5などは大陸だけではなく日本からも発生するようになり、一年中飛び交っています。アレルギーは花粉症も含めれば、現代人の2人に1人は何かしらもっていると考えられており、呼吸器アレルギー科クリニックへの需要は高まるばかりです。全国的にもっと専門医が増えて欲しいですし、そこで強固なネットワークを作って治療のクオリティを上げていきたい」
90年代に、喘息の治療薬は大きな進化を遂げた。ベース治療が気管支拡張薬から吸入ステロイド薬に変化し、薬自体も進化しながら、吸入や内服など薬を体内に取り入れるためのシステムも変わっていった。多様化する治療薬のなかから、患者にマッチするものを選び組み合わせるという処方の仕方も変わってきている。さらには、消化器や心臓などの疾患があると喘息が悪化することもあり、複数の科にまたがっての治療が必要となった場合に備えて、常にアンテナを張り巡らしていなければならない。そういった背景のなかで、同氏は海外での学会に参加するなど積極的に情報発信・収拾の活動を行っており、現在は、第一線で活躍する医師たちが世界中から集まり喘息について研究を進めるプロジェクトにも参加している。
「ワールドワイドな研究プロジェクトに参加していると、全く異なる新しい発見もあれば、世界共通であることを実感させられる発見もあり、非常に有意義。現場で診療をする医師が、最先端の研究に携わることで、リアルワールドと机上の仮説がリンクすることも多く、非常に意味のある活動になっています。
現在は、バイオ製剤といって喘息の因子となるアレルギー反応が起こる時点で抑制するという早期治療が次世代の治療として期待されています。さらには遺伝子レベルで早期発見することを目指していますが、現段階では、喘息自体が一つの遺伝子で引き起こされているかどうかもわかっていません。原因や症状にバリエーションが多いことから、喘息と総合的に呼ぶのではなく、それぞれの遺伝子背景などから、より細分化した疾患名がつき、治療法も分かれていくことで、より効果の高い治療が望める時代がやってくるかもしれません。夢は、1週間に1錠の内服薬で治ること」
まだまだ未解明な喘息という現代疾患を、なんとか解明し、患者の助けになっていきたいという同氏の想いは誰よりも熱い。