Powered by Newsweek logo

林正剛
HAYASHI MASAYOSHI

林正剛

プラナス株式会社 代表取締役社長

建築デザインで研究機関にイノベーションを起こす。
これまでの研究施設のイメージを打ち破り、革新的な建築デザインで研究そのものにイノベーションを起こそうとしているプラナス株式会社。その建築は、デザインの目新しさによって注目を集めているわけではない。建築の目的はあくまでも、研究者がその場所で、イノベーションを呼べるひらめきを生むことができるようになること。日本の研究者たちの心を動かす斬新な事業の背景をひもとく。
林正剛
グラフィックの分野で学んだ知識を建築業へ。

技術やテクノロジーの進化により、何かを便利にするための研究や商品開発がある程度成熟しきったことが、現代の研究者たちの頭を悩ませるところ。どんな研究テーマが注目を浴びるかは、理屈だけでは説明できず、発想の面白さが求められている。他と差別化できるような研究発表を生み出したいと取り組むなかで、研究者をどう支えることが発想の種につながるのかと悩む研究機関も多い。

「僕らが手がけた研究所では、残業が増えてしまったなんて声を聞くほど、研究員たちのやる気や活気が上がったと報告をいただくことが多く、大変嬉しい。日本の研究機関は、まだまだ閉ざされていて、働く場所として健全な状態ではなかったり、創造力を掻き立てるエネルギーを生み出す場所になっていなかったり、暗くて閉鎖的なイメージのままになっているところも多い。その場所で働く人の、心を前に動かすような施設を作っていくことが我々の仕事です」
そう話すのは、プラナス株式会社代表取締役社長であり、クリエイティブディレクターの林正剛氏である。

もともとはアメリカの美術大学でグラフィックデザインを学び、社会を動かす広告を作りたいという夢を抱いていた林氏は、父親が経営する研究設備メーカーで日本の研究所の環境がどんなものであるかを目にする。
「日本の研究環境をもっと良いものにしたい」という父の思いに共鳴しながらも、「環境を変えるには、一部の設備だけを変えてもダメだ。建築から考え直さなければならない」、そう考えたことが現在の研究機関に特化した建築設計事務所という事業へつながっていった。
「これまで国内外のさまざまな研究施設の事例を見てきました。グラフィックを学んできたという人は建築の分野では珍しい存在で、今の仕事に非常に役立っていると感じています」
グラフィックの分野で学んだ認知心理学などの知識を活かし、色、香りなど研究員の五感に響かせる研究施設の建築を目指す林氏の手法は、ただ美しさや印象の良さを追求するのではなく、そこからどんな効果がもたらされるかを実証し、得られた結果を集約させて作り上げた綿密な計画の賜物なのである。

林正剛
人の輪を広げ、さらなるイノベーションを

「研究空間に色を加えるという概念はこれまでなかった。白やグレーなどシンプルな色が使われてきたが、実は、白は光の反射率が高く、目や脳がストレスを感じることがある。目を酷使している研究員にとっては、壁や床には白より黒を使ったほうがストレスが少ないと考えられる。また他にもオレンジは、コミュニケーションを活性化する効果があるといわれており、研究員同士の距離を縮める目的で、椅子やインテリアなどに取り入れるなど、イノベーションにつながりそうな色をデザインに加えるようにしています」
モダンで落ち着く場所というよりも、計算されたカオスを取り入れて設計するべきだ、というのが林氏の研究施設建築における理念である。

色だけではなく、香りや触り心地、形状のユニークさなど、デザインの手法は多岐にわたるが、これらはプラナスの社内だけで計画されているわけではない。
「普通の建築事務所は建物を建てて終わりだと思います。でも僕らのお客様は建物を求めているわけではない。求めているのは、そこで働く研究員の心が前向きになり、イノベーションを起こすこと。そのために、僕らは研究者全員を集めて徹底的にヒヤリングを行い、意見交換をしながら一緒に作り上げていく姿勢をとります。研究者と建築者のボーダーラインを越えるところがスタートラインです」

建築を考えるうえで林氏がこだわっていることのひとつに「密度」がある。イノベーションを起こすには、あえて人と人の距離をほどよく近づける狭さにすることでコミュニケーションのとりやすい環境を作り、より良い研究成果へつなげることを狙いとしている。
「実は、研究者と建築者の意見交換の場を設けることも、密度を高めることのひとつといえます。さらに今後、新しいものを生み出す取り組みとして、私たちプラナスが研究者同士のつながりを作り上げていくことも始めようとしています。研究機関や大学はそういった機会をもちにくい業界なので、研究施設の建築という仕事を核に人の輪が広がれば、さらなるイノベーションが生まれる可能性もあります」

自社をイノベーションアーキテクトと呼ぶ林氏は、日本の研究機関にイノベーションを起こすことにおいて、建築はあくまでもひとつの手段でしかないと語る。今後はオフィスツールの制作や、セミナー・イベントの開催など、より幅広い取り組みにチャレンジし、日本の研究機関に活気を生むことで、そこで活躍したいと思う若手人材の創出にも貢献していきたいと意欲を燃やす。

林正剛

プラナス株式会社 代表取締役社長
https://planus.co.jp/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。