健康のためのメンテナンスという差別化に注力
ラグジュアリーな個室空間で、五感にアプローチするヘッドスパを提供する同社。
髪や頭皮をケアし、頭のツボを刺激することで、首や肩の凝り、眼精疲労などの解消を促す。癒しをもたらす調光や音楽、アロマ、アフタードリンクなどのホスピタリティも、自律神経を整え良質な睡眠につなげる要素の一環だ。その効果から、男性のビジネスパーソンも多く訪れる。
「従来のヘッドスパは美容のイメージでした。しかし、頭皮のツボを押すと血液やリンパの流れがよくなり全身に効果を及ぼします。その結果、リラックス状態を生み出し、快眠につながるのです。この効果は長い人だと1週間ほど続き、リピーターを増やす要因になっています。当社では“究極睡眠”と銘打ち、健康のためのメンテナンスという差別化に力を入れました」
こうしたマーケティングに基づいたコンセプトづくりを得意とするのは、滝村氏の経歴と関係がある。大学卒業後、IT業界の会社で営業の経験を積んだ滝村氏は、家具・インテリア業界の会社に転職。商品企画、サプライチェー ン構築のための海外工場の開拓、販売戦略の実践など、川上から川下に至るまでの一貫した業務に深く携わった。
「スタートアップのような会社で、“家具業界をぶち壊そう”が合言葉。競合他社との差別化を重視し、マーケティングに関する多くの経験を積みました。しかし、消費者の価値観がモノよりも体験やサービスを重視する時代になり、その頃に出会ったのがヘッドスパだったのです。後に創業メンバーとなる女性が勤務していたヘアサロンで衝撃を受けました。彼女はヘッドスパに関するさまざまな講習を受けていて、唯一無二といえる手法を確立していたからです」
個よりもチームを重視
2019年、東京・青山に1号店を出し、翌年に銀座に出店したが、コロナ禍に見舞われてしまう。しかし、SNSでブランディングに磨きをかけ、その戦略はコロナ禍明けの集客や人材の採用にも効果を発揮した。同社は雇用面でも特徴があり、それは全員が美容師の資格をもち、ほとんどが正社員であること。そして、美容業界では一般的な指名制を採用せず、多店舗展開を図るために充実した研修制度で技術レベルを統一した。
「美容師は、労働環境の厳しさから離職する人が多いと聞きました。それなら当社が採用すれば、雇用問題を改善できると思ったのです。残業ゼロで、離職率は低く、入社後1カ月でデビューできるカリキュラムによる研修を用意。質の高いサービスを提供することで、美容師の平均よりも高い給与を払っています。施術する従業員を社名と同じ”ヘッドコンシェルジュ“と呼び、女性から憧れられる存在になることを目指しています」
現在、全国に14店舗を構え、人員規模は110名を超えたが、新規出店は計画的に行っているわけではないという。
将来は地元に帰りたいという従業員が何人かいれば、その地域への出店を検討。従業員は再就職する必要がなく、サービスの質も担保される。集客はSNSで行い、ある程度の商圏人口が見込めれば出店が可能になる。また、店長などの管理職がいないことも特徴のひとつといえる。
「当初、店長は置いたのですが、他の従業員との意思疎通が滞ってしまうのでやめました。人の評価は100人いれば100通りあるはず。その人の特性や個性を生かすためにも、会社の枠に人を当てはめるのではなく、人に仕組みを合わせる考え方をするようになりました。そもそも経営とは、組織で行うことで仕事の効率や質を高めることが本質だと聞いたことがあります。個よりもチームを重視し、かつ全員が経営的な思考をもつことを目指しています」
実際に、女性が働きやすい環境をつくるための美容や健康に関する支援制度ができるなど、従業員からの働きかけで実現したことは多い。その結果、自分たちで会社を動かしているという意識が芽生え、独自の企業文化が育まれるようになった。創業メンバーが今も全員残っているのも、試行錯誤しながら築き上げてきた企業文化の賜物だと滝村氏はいう。
各々の価値を高めることで自ずと会社は成長するという考えを重視するいっぽう、日本人ならではの高い技術力とホスピタリティを武器に、海外進出にも意欲的だ。
「インバウンドのお客様は多く、反響を見る限り海外には勝算があることを確信しています。具体的な計画はまだなく、海外で成功されている日本人経営のヘッドスパとの人材交流を通じて、情報収集している段階です。ただ、直営にはこだわりたい。なぜなら、当社の技術は特殊ゆえにマンツーマンでないと教えられないからです。国内と同様、正社員のチームでジャパンブランドを展開していきたいです」