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株式会社スター交通  碓氷浩敬
USUI HIROTAKA

碓氷浩敬

株式会社スター交通 代表取締役

日本の救急医療に一石を投じる
民間による患者搬送サービスの革新
救急車両による患者搬送業務を請け負う民間企業があることを皆さんはご存知だろうか。総務省の発表によると、2017年度の救急出動件数は630万件を数え、今後もその数は増加の一途を辿っていくと予想される。必然的に救急搬送を担う人員や車両の不足が懸念されるなか、一筋の光明といえるのは株式会社スター交通が2011年から手掛けている民間事業による患者搬送業務だ。社会貢献性の高いサービスでありながら、まだまだ世間への認知が広まっていない同事業にスポットを当てた。
株式会社スター交通  碓氷浩敬
東日本大震災で救急搬送の重要性に気付く

通常、患者の搬送業務は行政の管轄で取り仕切られ、総務省指導のもと、各市町村の消防署がその役割を担ってきた。しかし昨今、救急医療の分野で問題視され始めたのが、搬送するための車両と人員の不足だ。タクシー代わりや軽度の風邪で救急車を呼び出すなど、緊急性の低い出動要請が増加していることが要因の一つとなっている。また、病院側の医療従事者も不足しているため、搬送中に受け入れ病院が決まらず搬送患者がたらい回し状態になることも大きな社会問題となっている。

民間による救急搬送を行う株式会社スター交通は、もとは貸切バス事業を営む会社として創業しているが、設立当初から厳しい船出を強いられていた。代表取締役を務める碓氷浩敬氏は、当時の状況をこう語る。
「旅行業ひと筋20余年、貸切バス事業で地域トップを目指して会社を立ち上げました。しかし、当然のことながら、ぽっと出の零細企業が大手他社に敵うはずはありません。レジャー産業は経済が平常でなければ安定しない事業ですが、当時はリーマンショックの影響も根強く残っていました。そんな矢先に起こったのが、東日本大震災でした」

赤字続きだった同社にさらに追い打ちをかけるように、日本全体が未曽有の事態に直面していった。「貸切バス事業だけでは心細く」、一時は廃業も考えたという。しかし、それならばと強豪がいない分野への多角化を思い立ち、新規事業として選んだのが民間救急による「患者搬送事業」だったと碓氷氏は言う。
「もともと “人を運ぶ” ということは本職でしたから、そのノウハウを救急車両に活用できれば、社会貢献性の高い事業に転換できると考えました」
しかしここで、大きなハードルが同社に立ち塞がる。

株式会社スター交通  碓氷浩敬
諦めない心で、世の中に必要とされるサービスを

民間事業者が患者搬送業務を請け負うためには、国土交通省と消防本部から認可をもらう必要がある。さらに、搬送に携わるスタッフは二種免許、介護資格、患者搬送資格を取得しなければいけない。日本国内では法人事業として患者搬送業務を請け負うケースはまだまだ少なく、特に地方では稀。そのため当初は病院側の理解が得られず、「遊びじゃないんですよ」と言われることが日常茶飯事だった。素人が患者搬送などできるわけがないと、現実を突きつけられたのだ。

しかし碓氷氏は諦めなかった。東日本大震災直後の4月半ば、通常業務の合間を使いながら当時社員6人で介護学校に通い詰め、約1カ月半をかけて介護資格を取得。週末には地元の消防本部で実地訓練を受け、患者搬送資格も取得した。また搬送するための車両には最新の医療設備を導入し看護士も採用して万全の体制を整備。そこから徐々に実績を積んでいきながら、民間事業による患者搬送業務を確立させていった。

2018年には年間の搬送件数が約200件超、2019年はすでに300件を超え、2台の救急車両をフル稼働と、その需要は右肩がりだ。当初同社が請け負う患者搬送依頼の大半は転院によるものだったが、近年は精神疾患や重とく患者、海外移送の一端を担うなど出動要請も多岐にわたっている。また、消防救急による需給バランスが崩壊しつつあるなかで専門医師の不足も重なり、その貢献性は実に高い。毎日のように依頼の電話が鳴り、北は青森、南は九州と、搬送距離も広域に及ぶ。

「例えばある方が出張先や旅行先で脳梗塞を発症し、出先で救急搬送されしばらくの入院生活を送ることになったとしましょう。その場合、大半の家族や当人は、自宅最寄りの
病院への転院を強く希望します。そのため医療設備が整った車両を長時間使われることになり、緊急性は高くないものの、救急車不足を露呈する結果にも繋がってしまう。そうした課題を解決する手段として大きな役割を果たすのが、私たちの患者搬送業務なんです」

そのため搬送する患者の容体は脳疾患や癌、心疾患や骨折に至るまで多岐にわたる。最近では精神疾患の患者搬送増加に伴い、精神疾患医療に長けた看護師を雇用するなど、患者搬送に付随した相談窓口としても大きな役割を果たすようになった。

また、現在はインバウンドによる海外からの訪日旅行客も急増し、外国人患者の需要も増えていることから、医療通訳スタッフも新たに配備。今後は空港までの陸送を手助けできるような動きにも注力していきたいと碓氷氏は語る。
「搬送のタイミングは予測できるものではありませんから、24時間いつでも柔軟に対応できる体制を整えていかなければいけません。そして何より、世のため人のためになるのであれば絶対に続けていきたい」

医療業界が直面する救急車両不足や人材不足。それらをリカバリーする民間の患者搬送業務が、少子高齢化社会を迎えた日本において重要な事業であることは言うまでもない。今後もさらに官民の連携を高めていきながら、その社会的意義が広く認められていくことを願うばかりだ。

碓氷浩敬

株式会社スター交通 代表取締役
https://www.s-koutsu.com/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。